結界系異能力者は駆ける

いちのさつき

第一章 伊能警備のバイトのお誘い

第1話 オタク女子、大学デビュー!

 大学入学式当日。温暖化が進み、桜が散り始めるシーズンでもある。染めた黄土色の髪と黒いスーツ姿で会場のホテル(有名どころだった)に入り、その後はレンガ調の大学キャンパスでサークル勧誘を受ける。隣の席にいた人とパンフでチェックをして、興味を持つところに向かう。


「軽音部に行くから!」


 隣の人と分かれ、A館という建物に入る。美術や陶芸など芸術関連の専攻科目が利用するらしい。世界の様々な芸術を学問として研究するために作られたとか。その中に目的のサークルの拠点がある。二階の共通フロアだと書かれているのでそちらまで行く。


「漫画研究会へようこそ。飲み物どうぞ!」


 男女比は半々。フリルたっぷりの白いドレスを纏う、小柄な女性の先輩からウーロン茶を受け取って座る。手掛けてきた作品があったのでパラパラと読む。中華風のファンタジー世界と言ったところか。幅広い中国の時代をベースとしている。風習で巡礼の旅をする物語らしい。描いたと思われる女性の先輩(派手な赤色のチャイナドレスを着ている)が苦笑いをしていた。


「本当は後宮を描こうとしたんだけど、どんどん考えていくうちにこうなっちゃった」

「そうなんですか?」


 設定やプロットが書かれているコピーを見る。ああ。本当に最初の設定では後宮らしいものがある。キャラクターや話の流れを決めていくにつれて、消失していく様子がよく分かる。


「女性主人公で中華風ってなるとさ。大体後宮でしょ。色々流行りものを取り入れようとしたんだけど」


 スマホゲームの周回をちまちまとやっている茶髪の男が冷静に言う。


「某有名ゲームに触発された結果っすね。ついでに言うと、この先輩は流行りを取り入れて描くとかは無理っす」


 女性の先輩はそういうタイプだったかと思いながら、ペラペラとページを捲る。


「井中、言うな。言わないでぇ」


 先輩の声がどんどん弱々しくなっていく。


「出来る時にやりゃあいいんすよ。あ。丁度良かった。代わりにガチャ引いてくれねえっすかね」


 さっとスマホを出した。新入生というか、初対面の人にガチャ頼んでいいのか。よくないだろう。


「新入りに何やらせようとしてんだ」


 お茶を渡してくれた、フリルたっぷりのドレスを着た先輩が容赦なく、紙のハリセンで男の頭を叩いた。男は泣くように叫ぶ。


「だって! 目当ての子が来ないんすもん! 下手したら天井っす!」


 よくあるよくあると私は心の中で頷く。ああいうタイプのゲームはガチャと呼ばれるシステムで引きまくるわけだが、確率はとてつもなく低い。というかこの男の先輩は天井近くまで引いていたらしい。貯めていたのに来なかったか。或いは課金したのに来なかったか。経験上、両方のような気がしてきた。私の場合は縁がなかったと諦めるのだが、この男はまだ諦めきれないようだ。


「なんかごめんねぇ。ここ、だいぶ緩いとこだからさ。ガチでやりたいなら、他のとこに行った方がいいよ。マジで」


 チャイナドレス先輩が謝っていた。「マジで」がガチの声だった。恐らく就職活動をガチでやるのなら、運動部や社会活動系にしておけというものなのだろう。元からオタク活動する気満々なので問題無い。寧ろこういう空気の方がやりやすい。


「いえ。ここにします」


 そういうわけで、入学して早々漫画研究会に入る希望を出した。学業はシステムを理解したので、登録などは問題ないはずだ。残るは金。生活する上で必要な金は一部自分で調達しなければいけない。バイト探しを始めよう。怪しいところは出来るだけ避けたい。

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