蓋を閉める

@mohoumono

蓋を閉める

蓋を閉めるそんな表情をした子供がいた。その子の笑顔は、桜を咲かせた花咲か爺さんのような不思議な力を持っていた。誰からみても理想の子供だった。スーパーで走り回るような子供特有の無鉄砲さもなくかといって、世の中を悟ったような暗さもなかった。適度に無邪気で適度に謙虚だった。大人は可愛がることだけしていれば、後はその子が笑顔を振り撒いていく。その子が通る道は、笑顔が咲き乱れる。周りの人々は、不幸なんて言葉はその子には不釣り合いなものだと考えていた。ただその子供は、自分の事を少し大人になったと感じていた。だから、蓋をした。自分が笑っていれば、誰も泣かないから。そんな確信があった。そして、誰も泣いてほしくない、そんな信念があった。それだけ子供にとって、大人の涙が自分の背中に伝う感触は、忘れられないものであった。僕は、少し大人だから。そういって、子供は蓋をした。本当は布団を引きずって泣いていたのに。本当は、テレビを見て、泣いていたのに。本当は、リハビリが上手くいかず泣いていたのに。本当は、目を見て泣きたかったのに。本当は、本とうは、ほんとうは、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蓋を閉める @mohoumono

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る