千川③

「ん? 何やってんだ?」

 亀井が店の商品に何やらしていた。

「手書きのPOP広告をつけて、商品の良さをアピールすることで、売上に貢献できないかなと思いまして」

 ドありがちで安易なアイデアだな、と綿貫は思った。

「ふーん。でも、うちの店は常連客が多くて、商品についてだいたいわかってるから、それでの売上増はあまり期待できないんじゃないか?」

「それでも、やるだけやってみます。私なんかにできることはこれくらいしかありませんから」

 そう言いながら、亀井はせっせと作業を続けている。

 まあ、俺の言葉ですぐに行動に移したんだから、悪い気はしないけど。

「そういえば、店長の許可は取ったんだろうな?」

「はい、もちろん。頑張りなって言ってもらいました」

 な、なにー。


「店長、なんで俺の提案はすべて却下して、亀井のはOKなんですか?」

 綿貫は、麦チョコを食べていた千川に訴えた。ちなみに千川は、背は高いが太ってはいない。

「え? だって亀ちゃんのは、お客さんのことを思った素晴らしいアイデアじゃないか。それにコストもほとんどかからないし」

 何だ、結局コストですか。それに、俺だって客のことを考えてますよ。

 綿貫はほおを膨らませた。

「でも、あいつ張りきって、やたらいっぱいPOP作ってましたけど、あんまりあちこちに長い文章が書かれた紙があると、目障りで嫌だってお客さんもいるかもしれないですよ。いいんですか?」

「もし評判が悪ければ、そのとき考えるよ。多分問題はないと思うしね」

 くー。亀井にはずいぶんと寛容じゃねえか。こりゃあ、鼻の下を伸ばしてたりしてるな。

 もしうまくいかなかったら覚えてろよ。もっとブーブー文句を言ってやるからな。

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