レースの姫君と怪物
赤地 鎌
第1話 GC-1のレース
2045年
新たな核融合の技術が誕生する。
それは低温核融合。
巨大なコイルといった巨大施設が必要な核融合発電に革命が起こる。
2024年3月29日
とある論文が発表された。
超低温環境下における半導体に、重力子に似た粒子が確認される。
これを更に研究、発展させた結果。
絶対零度に近い温度による超伝導を使った人工重力を発生させる装置の開発が成功し、1センチ以下の大きさを持つ高密度の重力場を作る事が出来た。
その低温かつ超高密度の重力場によって、小規模な核融合が可能となり、それによって莫大な動力を生成し、エネルギー革命が起こった。
そのエネルギー革命は、世界に広がって…
やがて、モータースポーツへ拡大した。
これは、新たなモータースポーツ、GX-1とするモータースポーツの話である。
◇◇◇◇◇
一人の男性
ミハエル・ローグス
四十代後半
彼は、このGX-1のモータースポーツの年間覇者だ。
GX-1というモータースポーツが誕生して六年、その五年間を彼は一位の覇者として君臨し続けている。
GX-1…小型の超低温核融合を動力を搭載した車両を使ったスピードレース。
その速度は、最高速度、時速1200キロという音速にまで到達する瞬間がある、人間が反応できる限界速度を超えたモータースポーツ。
様々な低温核融合の技術と動力や車両関係の技術が集合して、苛烈なレースを繰り広げるなか、唯一優勝し続ける男。
音速になる車両をコントロールするのは人間でもあるが、安全性を担保する為に高性能のAIを搭載し、車両が衝突する寸前に回避と共に、事故の際には操縦者の安全を確保する運転や操作を自動で行う。
そして、何より瞬間時速が音速に達するので、小柄な女性が有利となっているので、女性ドライバーも多い。
GC-1のモータースポーツは、6チームあり、二人のドライバーを抱えている。
十二名のドライバーがいるが、男性は四人、八人が女性ドライバーだ。
ミハエルがサーキットのピットを歩いていると
「ミハエル!」
と、呼びかける金髪で小麦色の肌の20代の女性
彼女は、ミハエルと覇者の座を賭けて戦うライバル
サラ・コーナーだ
ミハエルが微笑み
「やあ、サラ…今日の調子は、どうだい?」
サラがダイビングスーツに近い体のラインが出る特別な耐圧ドライバースーツで近づき
「最高よ。今日は、アナタに勝てそうだわ」
ミハエルが微笑みながら
「そうか、じゃあ…気合いを入れないとな…。まだまだ、サラには負けるつもりはないからね」
サラがミハエルの肩を軽く叩き
「あら、それってフラグ? 今日こそアナタに勝って、王座を譲って貰うわ」
と、自分のチームのピットへ向かった。
ミハエルは微笑みながら、全体のピットを見回す。
ミハエルのチーム、オルディオン
他のチーム、サラがいるのは、フレイル
サラと、そのチームメイトで十代後半の彼女は、サラとは髪が違い赤毛で大人しそうな感じのミレイユ・ザンドラ
ログスというチームには、李 美玲と王 月花
二人は共に今年で二十歳になる黒髪の美女。
ライディンというチームには、白い肌をした金髪と青毛の美女がいる。
金髪がサラと同年代の二十代で、アレシア・サマランド
青毛…というよりプラチナブロンドの薄い色な感じの十代半ばの娘は、ブリジッド・アレイナ
そして、ミハエルと同じ男性ドライバーがいる。
オウレンというチームには、催 賢宇とその弟、催 道賢
共に三十代だ。
そして、未成年がドライバーのチーム、富岳には
黒髪と青髪が混ざった十代半ばの娘、美香・アレース・鈴木
黒髪と赤毛が混ざる十代半ばの娘、綾・アール・四谷
ミハエルは、微笑む。
若い子達が多い事は良い事だ。
どんな催し物でも、アイドルは必要だ。
サラを含めた女性達をアイドルとは、ミハエルは思っていない。
でも、どうしてもこういうモータースポーツといったマシンが中心の大会には、花が多ければ多い程、注目もされて成功する。
彼女達は、ミハエルを超えようとがんばっている。
それが色んな応援を呼び込み、一種のアイドルになっている。
ミハエルの隣に
「ミハエル、準備が近いぞ」
と、同年配のオッサンで仲間の藤治郎が来た。
ミハエルが
「ありがとう、藤治郎」
藤治郎が
「新しいチームが二つほど加わるという話を聞いているか?」
ミハエルが頷き
「ああ…一つは、サラと同じ女性ドライバーで十代半ばの娘なんだろう。もう一つは、オレ達と同じオッサンらしいな」
藤治郎が
「ただでさえ、男女比が極端なGX-1というモータースポーツだ。同じ男性の仲間が増えるのは嬉しい事だ」
ミハエルが
「でも、いいじゃないか。レースをすれば男女なんて関係ない。むしろ、女性が多い程、注目をされて、このGC-1は儲かるし、オレ達も安泰だ」
藤治郎がフンと鼻息を出して
「そうだな。怪物なんて誰も望んでいない。華やかで煌びやかな世界、確かに…そうだ」
ミハエルが
「だろう、お前だって息子達がライディンというチームのファンで、サインをせびられているんだろう」
藤治郎が渋い顔して
「ミハエルだって、幼い男の子がいるんだろう。複雑だぞ。自分を応援してくれない子供達ってのは」
ミハエルが微笑みながら
「そうだな、大きくなって、あのチームのサイン貰ってきて…言われて、内心で悲しいけど、貰ってくるんだろうなぁ…」
そんな共に父親との会話をして、GC-1のレースは始まった。
小型の低温核融合を動力とするGC-1のマシンは、鋭角な戦闘機のようなタイプと、平たい楕円形で幅広いスポーツカータイプの二つだ。
GC-1のエンジン、低温核融合が膨大なエネルギーを生成して、それをタイヤに伝える。
電力にしてモーターを駆動するタイプと、そのエネルギーを直接、回転力に変えて駆動するタイプ。
そのGC-1達が、低温核融合の出力上昇の爆音を響かせて、始まった。
ミハエルとサラが先頭で、一斉に十二機のマシンが疾走する。
ミハエルは、戦闘機のタイプ
サラは、スポーツカーのタイプ
それにミハエルの同僚である藤治郎と、他のチームが繋がる。
ミハエルの強さは、先読みの力だ。
瞬間時速が音速を超えるGC-1ではコンマ秒で数百メートルも疾走する。
無論、AIによって安全操作が強制介入するので、事故になりそうな場合は、その寸前でスピード制御とコース操作が行われる。
そのAIの反応するギリギリを狙いつつ、先を読んで最速で相手を追い抜かすか、相手に追い抜かせないようにする。
まさに、読み合いとスピードタイミング、選択の先読みがGC-1の醍醐味だ。
ミハエルは、この能力が高い。
所謂、普通が持つ空気を読む力が突破したタイミングを読む天才で、ドライバーとしても天性の才能を有している。
サラが
「クソ! もう少しだったのに!」
と、ミハエルを抜けそうな瞬間にミハエルに前を防がれる。
ミハエルが
「まだまだ、だよ。レディ」
GC-1レース最終に近いシーズン、ミハエルの今年の優勝は確定している。
二十試合ある内の九試合を一位、他は二位や三位だ。
トータルで、年間覇者は確定している。
残りのレースは六つ。
だが、それでもミハエルに勝とうと狙う者達は多い。
そんなガッツをミハエルは感じて嬉しくなる。
誰しもが挑戦者、サラを始め女性ドライバーは、ミハエル打倒を掲げている。
挑戦者が多いレースほど、盛り上がる。
そして、競り合う。
誰しもがミハエルから一位を狙おうと躍起になる。
その鋭いプレッシャーをミハエルは感じる。
一位のミハエルの後ろ、五台が続く、サラ、アレシア、美香、ミレイユ、ブリジッドだ。
ブリジッドがハンドルを強く握り
「オッサン、早く! 倒されろ!」
ミハエルには聞こえてはいないが、ブリジッドの運転動作で、煽っているのが気付く。
「そんなに焦っちゃあ…元が取れないぞ」
レース会場は日本だ。富士山サーキット
直線が多く、直線の後には大きく曲がるコーナーばかり
加速と急減速、ハンドリングのタイミングが重要だ。
1000メートルも続く直線が来る。
コーナーを越えた瞬間、一斉にマシンが瞬間速度、音速のレバーを入れる。
マシンが唸る。
ウィングや様々な制御装置が働き、コンマ秒で音速へ。
1000メートルの半分をコンマ秒で到達する。
そこで、AI自動ブレーキが掛かる。
次の180°コーナを曲がる為に必要だ。
AIの自動ブレーキより早く、ブレーキを掛けるのが勝負だ。
早くてもダメ、遅すぎるとAIの自動ブレーキが掛かって負ける。
最適でピッタリのタイミングで、完璧なタイミングでミハエルがブレーキを掛ける。
そして、最高の速度でコーナーを曲がった瞬間、その後ろが引き離されていく。
サラが
「クソ! またか!」
コンマ秒の世界での遅さは、数秒後には数百メートルと離される。
ミハエルが覇者とする由縁だ。
ミハエルは、どんな状況でもどんな環境でも、最適なブレーキタイミングとコーナリングを行う。
レースが始まる前、試運転の予選では、みんなミハエルのようにタイミングを完璧にこなせるが、これは、レースだ。
不測の事態が起こる。
不測の不測を見て、先読みするミハエルに、未だ勝つ者達はいなかった。
今日のレースもミハエルが勝利して、十勝を決めて、今季の完全な覇者となった。
それでも残り6レースでミハエルから勝つのを、彼女達は諦めない。
それがスピードの姫君達なのだから。
◇◇◇◇◇
とある研究所、そこで特別な液体に満たされるカプセルで調節を受ける男。
ミハエルと同じ四十代
堂本 トオル。
トオルの入るカプセルの隣には、トオルを調整するスタッフと、その中心である博士…いや、研究者の中山 ミスルがいる。
ミスルの後頭部、うなじには特別な端末装着されて人体と一体になっている。
ブレインデバイスとされる、脳とシステムが繋がった装置。
そのブレインデバイスは、精神障害者や、発達障害…神経発達症というメンタル治療及び、脳の機能が歪で不足している障害者の為に作られた装置だ。
それは、差別の対象でもあった。
この装置を装着されている者は、機械と融合しなけれが社会で生きて行けない。
落伍者としての証明と…差別する者達は多い。
ミスルが同じブレインデバイスも持ち、調節をされるトオルに
「どうだ? 調子は?」
液体が満たされるカプセルの中でトオルは目を開けて
「数値的に60%くらいだ」
ミスルは淡々と
「そうか。なら、ここを調節するとしよう」
持っている端末を操作してパラメーターを操作する。
トオルが繋がる先、そこには一台の黒いGC-1のマシンがある。
それは歪で、先端が鋭く後ろが広がっている。
まるで武器のようなマシン。
そのマシンが全身に電子回路模様を浮かべて全身の装甲を動かしている。
まるで、生き物のようだ。
トオルが
「75%まで来た」
ミスルが
「そうか、許容範囲だな」
まるで生きているようなGC-1のマシンが完成しようとしていた。
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