最後の晩餐

kei

短編 最後の晩餐

ついに、戦火がこの街にも近づいてきた。ロシアの軍隊が迷彩の衣を纏い、私たちの元に寄ってきた。この町の備兵が、なんとか戦ってくれているそうだが、もう間も無く尽きるだろう。そしてその兵の中には息子もいる。息子は兵隊の指揮官だった。私はそこの事情については詳しくないが、優秀な人材らしい。また爆発音が鳴った。早く逃げなければ。しかし間も無く俺はソ連兵に捕まり、奴隷として連れて行かれた。連れて行かれた場所は汚かった。腐卵臭が立ち込めていて、とても気分が悪いものだった。奴隷として何日か働き、鞭打ちされ、精神が狂い始めた頃、誰かからこんな話を聞いた。

「あなたの息子の指揮官さんが処刑されるらしいわよ」

一瞬、時間が止まった。言ってる意味がわからなかった。処刑…?

そんな馬鹿な。そんなことはあってはならない。考えるより先に行動していた。

近くにいた教官らしき人に聞いた

「指揮官は処刑されるんですか!?」

「ああ。当たり前だ。俺たちを殺そうとした奴らの指揮をとっていたからな」

「息子なんです。どうにか中止することはできないでしょうか。お願いします。お願いします…」

「息子だがなんだか知らんがダメなもんはダメだ。そんな融通のきく立場ではない。お前は。」

「では私が代わりに処刑されます。それじゃあダメですか」

「ふん、それなら考えてやってもいいだろう。ついてこい」

そうやって連れて行かれたのは、面会所のようなところだった。半ば恐怖に襲われていたが、段々気も重く無くなってきた。

「交渉には時間がかかるから、ここで2時間くらい待っておけ。牢屋はもっと遠くにある。そこからそいつを連れ出してそいつの了承を得てからお前を処刑場に連れて行く。わかったか。」

「わかりました。ありがとうございます」

ありがとうという言葉を使ってしまった。こいつには恩などなく怨念しかないのに。

1時間くらい経った時、猛烈な空腹に襲われた。我慢できずに、

「朝から何も食ってないんです。何か食糧はありますか。このままだと処刑場に行く前に死んでしまいます。」

すると、

「うるせぇなぁ。こっちは死んでも構わないんだよ。まあいい。適当に見てくるから待ってろ。最後の晩餐くらい楽しめよ。」

まもなく運ばれてきたのは、冷えたシチューだった。美味しいとは言い難かったが、私は一気に食べた。しかし4口目、5口目で違和感を感じた。違和感の正体に気づいた。

肉だ。この肉は豚肉でも鶏肉でもなかった。

「これはなんの肉ですか?」

すると笑いながらこう答えられた。

「気づかなかったか。それはお前の息子の肉だよ。既に殺してあるのをわざわざ捌いてやったんだ。感謝しな。しかしまさかそれが最後の晩餐だとはな。」

私は狂ったように叫んだ。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

しかし間も無く私は首を絞められ、近くにあったぬるい水の溜まったバケツに頭を突っ込まれた。死ぬ直前まで、あの肉の味は忘れなかった。

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最後の晩餐 kei @keigo305

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