第四幕 招集(3)
――――昨夜、合格された皆様、お疲れ様です。誠に残念ながら、敗者は淘汰とあいなりました。ですが、この世界の理とは弱肉強食。特にヴァーチャルにて玉座を飾る者にとって、忘れ去られることは死と同じです。そのような些末ごとに、気をとられる者は歌姫志望にも女王候補にもふさわしくない。
――――そうは、思われませんか?
――――故に、皆様の目にされた光景については、他言無用に願います。
――――最も、過去に、誰にも信じてもらえず、錯乱の果てに、SNSへと叫びを書き残した者もおりましたが……その末路については、言わぬが華でしょう。
――――他の合格者を知り得たとしても、コンタクトは禁止です。確認された場合、双方に対して、相応のペナルティを課させていただきます。今はただ黙して、次をお待ちください。栄光の玉座まではあと少し。戴冠式は華やかに行いましょう。
――――ですが、そのためには最後の一人を決めなくてはなりません。だって、そうでしょう? スタァに許されし冠は、たった一つしかないのですから。
――――次回が【少女サーカス】最終審査となります。
――――美しくも悲壮な覚悟を胸に、お待ちください。
***
以上が運営から届いた、新規のメールの内容だった。
短く、七音は息を呑む。危ないところだった。彼女は神薙へとメッセージを送る直前だったのだ。違反行為と知らなったかと訴えたところで、殺人も厭わない連中が聞いてくれるとは期待できない。下手をすれば、神薙をも巻き添えにするところだった。
メールの末尾には、最終選考の日時が添えてある。
次回開催までの期間は短かった。来週の日曜日だ。
「……いやだ。死にたくない。戦いたくない」
神薙のことは心配だ。だが、首吊り死体の揺れる様が、頭から離れなかった。
絶対の覚悟が薄れて消えていく。それに【時計兎】の語りのとおりだった。最も脱落の危険性が高いのは間違いなく七音だ。あの二人より、首を吊られてもおかしくはなかった。
誰もが首肯するだろう。
彼女自身もそう思った。
「………………………ッ!」
たまらなく怖くなり、七音は立ちあがった。階段を駆け降り、リビングの扉を開く。
キッチンシンクで、母は野菜を洗っていた。大きな音に驚いたのか、彼女はわずかに振り返る。だが、怪訝そうに目を細めただけで、作業へともどった。ぎゅっと、七音はうるさい心臓を押さえつけた。過去に、母が味方をしてくれた例などない。それでも、今だけは細い背中に縋りつきたかった。一縷の希望を胸に抱いて、七音は口を開く。
「あの、ね」
コレは違反行為に該当するのだろうか。わからない。【少女サーカス】には口で直接伝えた言葉すらも、知る術があるのだろうか。そうだとしてもおかしくはない。彼らの存在は異常なのだ。それでもと、七音は思う。せめて、母には知っておいて欲しかった。
いつも厳しく、不機嫌で、愛情を感じたことなどない。だが、七音の家族で、育ててくれた人で、実の親なのだ。涙が滲む。喉がひきつる。震えながら、七音は切実に訴えた。
「お母さん、私、殺されちゃうかもしれない」
七音は待つ。真剣に、彼女は脳内で情報を組み立てた。どうしたのと、聞かれるだろう。嘘だと思われないためには、どう話すべきか。それを考える。だが、その必要はなかった。
微塵も、母は振り向かない。
簡潔な言葉だけが返された。
「馬鹿言ってないで、勉強しなさい」
そして、七音は審査当日を迎えた。
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