Day.6-8 伸ばされた手

 誠と瑠奈は愛慈いちかの手を握って人通りの多い道をひたすらに走り続けた。


 役目終了まで残り数時間。

 愛慈を連れ戻した今、二人には逃げる以外の選択肢は無かった。

 どこまで逃げればいいのか。このまま三人で逃げ切れば成功になるのか。愛慈を離さないことで大事にしたという事になるのか。何も分からない二人だが、とにかく必死に走り続けた。


 駅に到着した丁度その時だった。


「どこに行こうってんだ? 東雲しののめさんよ」


 闇金の男がそこで待ち構えていたのだ。これには二人は苦い顔をする。


「まさかこのままってんじゃないよな?」


 ぞろぞろと男達が増えていき、三人との距離を詰めていった。


「どうするの? これじゃ私達が殺されちまうよ……」

「分かってる……」


 誠は愛慈を見ると、その顔は何を考えているのか分からない表情をしていた。


「逃げるしかないだろう。ここで殺されちゃおしまいなんだからな」


 誠は来た道を全力で戻り始めた。瑠奈はそれに従い、背後に迫る男達の方を見ずにひたすらに誠の後ろを走った。


 その時だった。

 三人に迫る一台の車があった。

 その存在に気付いた時にはもう遅く、避ける事が出来ない位置まで車が迫っていた。


「ぐわぁ!」


 三人は思いきり車と接触し、その車は壁に激突してようやく止まった。運転していたのはやはり闇金の人間だったようで、彼もまた車から出てきた。

 誠と瑠奈は重傷を負いながらもどうにか自力で立つことが出来た。しかし愛慈は車の下に倒れていた。

 それでもどうにか意識はあった。


「うっ……うぅっ……」


 呻声を上げながら、車と地面の隙間から誠と瑠奈を虚ろな目で見る愛慈。

 足が動かず自力で抜け出すことが出来ない。それを悟った愛慈は二人に手を伸ばした。


「お父…さん…… お母…さん……たすけ……」


 とても小さな声だった。

 それを聞き取れるわけがない誠は瑠奈の肩を抱いて、再び逃げようとしていた。

その背中に向けて愛慈は今出せる最も大きな声で


「お父さん……! お母さん……! 助け…て…!」


 と叫んだ。

 流石にこれは聞こえたのだろう。誠が愛慈を見た。しかし彼の答えは再び背を向ける事だった。


「いいの? 愛慈は。これじゃ……」

「いいんだ。ここで俺らがやられたらそれはそれでまずい…… 後で連れて行く」


 二人の後ろから何度も発せられていた声が次第に弱弱しくなっていき、最後に振り返った誠と瑠奈が見た光景は、悲しそうに絶望する娘の顔だった。


 既に愛慈の周りには闇金の男達がたくさんいた。今そこに突っ込めばただじゃ済まないのは明白だ。

 これは、この行為は間違っていない。そう自分に言い聞かせる誠と瑠奈だった。


 まもなくして時計の針は役目の終了時刻を差し、二人は狭間の世界へ戻された。

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