第18話

 突然訪問した私を真紘さんは受け入れてくれる。

「ちょっと喧嘩して飛び出して来ちゃったから、ここに居てもいいですか? 迷惑じゃないですか?」

「いいよ、好きなだけ居ればいい」


「大丈夫? お腹空いてる? お風呂で温まる? 話も聞くよ?」

 今日が誕生日で大事なデートだったことも知っているから、そこで喧嘩した私を気遣っているのだと思う。

「じゃあ、全部。フルコースで」

 その事が嬉しくて、私は甘えてしまう。

「よし、一個ずつやってこ。まずはお風呂かな、その間に何か作るね」


 脱衣所で準備していたら、ドアが開いた。

「うさちゃん、ボディソープ切れてたからコレ使って……あ、ごめん」

 そしてすぐに閉じられたドア。

「ん?」

 あぁそうか、脱ぎかけていたから下着を見られてしまったのか。

 一瞬だったし、まだほぼ布に覆われているし、そんなに気にすることはないのに。それに、もっと恥ずかしい場所もすでに見られているのだし。


 お風呂からあがると、良い匂いがしていた。

「あり合わせだから期待しないでね」

 そう言われて出された食事は、サワラの西京焼きときんぴらに豚汁で。

 感動してしまった。

 さっきのコース料理は全く味なんてしなくて、私の舌がおかしくなったんじゃないかって心配したけど、真紘さんの作ったご飯はこんなにも美味しいんだもん。

 食べながら今日あったことを話していく。


「それは大変だったね、普通でも緊張しちゃうのに、いきなりなんて」

「ですよね、あり得ない。しかもセンシティブなプレッシャーかけてくるし」

「彼氏くん、焦っちゃったのかな」

「焦る? なんで?」

「うさちゃんが、どんどん綺麗になっていくから」

「だから、なんで?」

「誰かに取られたくなかったから、とか?」

 わからないけど、と目を伏せる。


 綺麗になんて、なっただろうか。

 確かに服やヒールを買ったり、お洒落を楽しむようにはなったが。

 もしもそうだとしたら、それは明らかに、真紘さんの存在が影響しているんだろう。そして誰かに取られるとしたら……やっぱり真紘さん以外いないわけで。

「え?」

「え?」

「うさちゃん、見過ぎよ」

 だって、ずっと見つめていたいんだもん。

 綺麗なのに、可愛らしい仕草の、料理上手な、仕事の出来る女性。

 私にはもったいない。


「なんで?」

「なにが?」

「真紘さんは、なんで私を好きになったの? いつから?」

「最初から気になってたよ、飾ってあったパンプスを眺めてたでしょ、入ってきてくれないかなって思ってた。そしたら私が絶対応対するって決めてた」

「だから、なんで」

 私が真紘さんに一目惚れするならわかる、でも地味で平凡な私を真紘さんが好きになるなんて……


「初恋の人に似てたの」

「えっ」

「幼い頃の淡い恋よ、もちろん成就はしなかったし。今となっては良い思い出ね」

 真紘さんがどこか遠い目をしていて、でも優しい瞳で微笑んでいる。

 その人のことを思い出してるんだ。


「わっ、どうした?」

 私は何故かいたたまれなくなって、立ち上がっていた。

「あ、なんでもないです」

 その後は言葉少なに食事を終えた。

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