第12話

 あれから、早乙女さんから連絡がない。

 忙しいのかもしれない、それはわかっている。でも……



「久しぶりにぐっすり眠れたわ、ありがとう」

 添い寝をした翌朝はいくぶん顔色も良くなっていたし。

「また連絡するわね」

 確かにそう言っていた。



 私からのメッセージに既読はついている。

 時間を置いて、日にちを置いて、何度もメッセージを送っている。

 なんで返事がないの?


 お店に行ってみた。

 店員さんに聞けば、オーナーはしばらく来ていないとのこと。

 電話をかけてみる。

 出ない。

 もう一度。

 出ない。

 ふと顔を上げる、あぁ満月だ。

 あれから一月近く経ったのか。

 胸騒ぎがしてしょうがない。

 こうなったら、出るまでかけ続けよう。


「うさちゃん?」

「やっと出た! 早乙女さん今どこですか?」

「……家」

「今から行きますよ、いいですよね?」

「うん」



「久しぶり」

 見つめると、小さくそう言った早乙女さんは思ったよりやつれてはいなくて。

「元気……でしたか?」

「うん、おかげさまで開店の目処もたったわ」

「そうですか、良かったです」

 そっか、私の早とちりか。でも、だったらなんで?

「心配してくれてたよね、ごめん」

「どうして返事くれなかったんですか?」

 理由なく既読スルーする人にはどうしても思えなくて、だったらそれはもう、私とは連絡取りたくないという意思表示しかなくて。

「ごめんね」

「そんな……」

 嫌われたってこと?

「泣かないで、ちゃんと話すから」



 ゆったりしたソファに座る。

「あのね、実は私、女の人を好きになるの、いわゆるレズビアンね」

「そう……なんですね」

「うさちゃんのこと好きになっちゃったから、もう会わない方がいいと思ったの」

「えっ、なんで」

「ごめんね」

「どうして? 好きになったから会わないって、意味がわからない」

「うさちゃんには彼氏がいて、いずれ結婚して幸せになる。私のいる世界には近づかない方がいい」

 私の幸せ?

 どういうことだろう、早乙女さんに会わないことが私の幸せになるの?

「わかるでしょ」

 私は首を横に振って叫ぶ。

「わからない、私だって早乙女さんのこと好きですよ」

「それは、同じ好きじゃないのよ」

 半泣きの私に、優しく諭すようにゆっくりと話しかける。

「そんなの……」

 わからないじゃないか。

 今まで考えたことがなかっただけで。

 早乙女さんのことを一人の女性として好きなのかどうかなんて。


「だったら、試してみる?」

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