勇者「住所特定したから、凸します」 魔王「きっしょ。引っ越すわ」
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
きっしょ
「リリムゥン姫様! 勇者から予告状が!」
タブレットにて、スマホの掲示板サイトを、四天王が見せてきた。
勇者四〇二六番
『出前アプリのレシートから、住所特定できた。凸します』
「きっしょ」
ロリ魔王リリムゥンは、不快感をあらわにする。あまりのきっしょさに、タブレットを叩き割った。
このところ、いつも勇者に居所を特定されて、困っている。
頻繁に、引っ越しを繰り返しているのに。
しかし、出前や通販は止められない。
これをやるために、現地を捨ててチキュウのジャパンまでやってきたというのに。
「セバス。もうこれで何度目よ?」
「かれこれ、四五度目でございます」
「きっしょ。勇者も懲りないわよね」
リリムゥンは、はあ、とため息を付く。
「ジャパンのメシはウマい」と、いろんな魔王たちが自慢してきた。というかマウントかましてくる。
魔王にとって、「ジャパンでタワマン暮らし」は、もはやステータスとまでなっていた。
これができてこそ、一人前の魔王だと。
「アホくさ」とタカをくくっていたリリムゥンも、ジャパンのデカ盛りを見て心機一転。
ジャパンに住み始めたのである。
しかし住民票を取らないと、ロクに品物が届かず、出前もできない。
その個人情報を、勇者が特権で盗み見しているのだ。
「きっしょ。どうしてジャパンの勇者って、こんなにキモいのかしら?」
ジャパンはこれがあるから、めんどい。
「それにしては、ずいぶんと楽しんでおられるようですね」
「おまえもきっしょ。セバス」
和んでいる老執事に、リリムゥンは顔を歪める。
「引っ越すわ」
「またですか」
「しょうがないじゃないの。住所が特定されたなら、引っ越さないと。今度は、セキュリティ万全の家を探すわよ!」
チキュウの勇者は現地勇者と違って、ちっこくてカワイイものが好きだ。
どれだけの不快なコメントが、魔王配信チャンネル「リリムゥンのへや」に流れてきたことか。
タブレットには、未だにきっしょコメントが。
勇者一〇〇四番
『リリムゥンちゃんの髪の毛を装備したら、呪われました。でも解呪しません』
勇者二〇六五番
『食べ残しのモツ鍋で、体力回復しました』
勇者三〇一〇番
『リリムゥンちゃんのフロの残り湯を、回復の泉認定しておきました』
「どいつもこいつも、きっしょ。寒気がするわ」
新しい魔王城を建てながら、リリムは身震いした。
最初にチキュウで倒した勇者の段階から、ヤバイと思ったものだ。
勇者〇〇一番『リリムゥンちゃんの初めてを、もらいに来ました』
ゾワッとして、手加減せずに始末した。跡形も残らないように。
リスポンするとはいえ、心を折るくらいに破壊したつもりである。
だが、教会で復活した勇者第一号により、「予想以上にリリムゥンちゃんはかわいい」と知れ渡ってしまった。
教会のシスターが「きっしょ」と、今後の蘇生を拒否るほどに。
だが、相手にされていること自体は、悪い気がしない。
現地でリリムゥンは、化け物を見るような目で勇者に襲いかかられる。
これまでどれだけの勇者を、撃退してきたか。
「忌むべき存在」
「お前は存在自体、してはならない」
「この世界から、いなくなれ」
浴びせられた不快な罵声は、億を降らない。
そう言ってくる奴らをキレイに駆逐してから、チキュウへやってきた。
そいつらに比べれば……。
勇者が、来たようだ。
魔王城の工事の情報を聞きつけて、新住所に凸してきたらしい。
セキュリティはどうなっているのか。
「おお、今度のは、女勇者じゃん」
『勇者:四〇二六番です。同性同士、お友達どうしになりたい』
今回の勇者は、非常識ながらまともか?
『たとえ床ペロしたとしても、蘇生できなくていい。床になって、リリムゥンちゃんの足の裏の匂いを嗅いでいたい』
「……やっぱ、きっしょ」
床ペロはさせない。窓にぶん投げてやった。
勇者は魔王城での存在すら許されず、外へ落下して粉々に。
魂だけは、教会に還っていったようだが。
「おお勇者。しんでしまうとか、マジきっしょ」
そう吐き捨てるリリムゥンを、老執事は微笑ましく見ているのだった。
きっしょ。
勇者「住所特定したから、凸します」 魔王「きっしょ。引っ越すわ」 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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