204.船上最大の問題
船に乗って半日。大変恐れていたことが、俺の身に起こった。
「……ぎもぢわるい……」
『ままー』
『じょうさまー』
はい、ばっちり船酔いしたよこんちくしょう。そんなに海は荒れてないんだけどさ、何てーかこう、妙に長い周期でゆーらゆーらと揺れる感じが気持ち悪いんだよね。
そんなわけで俺は、俺用に用意されたらしい船の中でも一番豪華な船室のベッドでうんうん唸っている。……そーいや、最近巡りの物で寝込むことなくなったなあ。慣れたのかね、やっぱり。いや、それどころじゃねえし。昼飯もろくに喉通らなくてさ、あと二日半大丈夫か俺。
でまあ、こういう時に限ってあんまり見たくない顔が来るんだよね。具体的に言うと、コンゴウさんがご機嫌伺いに来やがった。まあ、俺迎えに来たんだから様子見に来るのは当たり前だけど、なあ。
「大丈夫でございますか?」
「あー、気にしないでください。寝てりゃ何とかなると思いますから」
「はあ……それならばよろしいのですが」
綺麗な顔してんだけど、感情薄いんだよねこの人。マジで心配してくれてるんならいいんだけど、どうもカイルさんに対する対応がアレなんで信じられないってか。
それは、俺以外の皆も同じ考えだったらしいので、そこは助かった。どっかり居座ろうとしたコンゴウさんを制して、備え付けのテーブルのところにいたアオイさんが強い口調で言ってくれたんだ。
「こちらの面倒は私が見ますので、コンゴウ殿はお気になさらないよう」
「で、ですが」
「彼女は船に慣れていないようですし、我々のほうが彼女のことはよく知っております。どうぞお任せを」
『ままにはぼくたちがいるから、だいじょうぶだよー』
『ごしんぱいしてくださるのは、ありがたいですが』
「は、はいっ」
俺の枕元にいてくれてるタケダくんとソーダくんが翼広げてしゃー、と声聞こえない相手には威嚇に思えるように息吐いたのも効果があったらしい。コンゴウさんは、大慌てで部屋から出て行ってくれた。扉口にはムラクモがいて、無言で礼をする。
あの態度さ、俺が『異邦人』だって知ったらどう変わるんだろうね。悪いけど、そこら辺信じられないから、ほんとに。
コンゴウさんが出て行った後、外をきょろきょろ確認してからムラクモが扉を閉めてくれた。その扉を背もたれにして、ふーと長い息を吐く。何だ、もしかして緊張してたのかね。
「……どうも、気に食わん」
「確かにな。ジョウに媚を売っているように見える……何となく、だが」
「はあ……」
ムラクモとアオイさんの感想に、俺はどう答えていいか分からない。あれで媚売ってるって、こっちの媚って安いのなってくらいしか。
あー、気持ち悪い。いやコンゴウさんがじゃなくって、船酔いが。
「ジョウ。あまり船には乗らないのか?」
「そうだなあ……ほとんど縁なかったな、そういや」
ムラクモに聞かれて、ものすごーく大雑把に答える。いや、こういうのってどこかで聞かれてたらやだし。変な台詞吐いて問題起こしてもなあ。何しろここ、逃げ場のない船の上だから。
『まま、だいじょうぶ?』
『じょうさま、そうほんざんにとうちゃくするまでゆっくりおやすみください』
「あーもー、タケダくんもソーダくんもありがとなあ」
うおー、伝書蛇のちょっと冷たい感触が気持ちいいぜ、おい。すりすりされて何かほっとしたー。
……ムラクモが、必死こいて視線そらしてるのがちらりと見えた。ああ、ここで悶えられたら別の意味で困るな。落ち着いたらムラクモにすりすりしてやれ、お前ら。
そんな感じですりすりしてたら、アオイさんが水差しからコップに水入れて持ってきてくれた。
「飲めそうか?」
「はい、多分。すいません」
よいしょ、と起き上がってコップ受け取る。あ、何かいい香りがする。花の香りでも付けてあるのかね、と思って一口飲んでみた。おお、甘いぞこれ。
「あま」
「水差しの方に、ビオラの砂糖漬けが入っている。普通の水を飲むよりは良いだろう?」
「はい……んく」
おー、それでか。確か、ビオラっていう花を砂糖で漬けてお菓子の飾りにしたり、お茶に入れて飲んだりするんだったっけ。春くらいにマリカさんが作るって言ってたけど、あれどうなったかなあ。
マリカさんには帰ってから聞いてみることにして、ともかく水を飲み干した。
身体が女なせいか、ちょい小食になった代わりに甘いもの結構OKになってるんだよなあ。しかし、向こうでいうケーキバイキングはたぶん無理だ。あんなに甘いものばっか食ってられっか。
「ごちそうさまでしたー」
「ふむ、少しは楽になったようだな」
「はい。まだくらくらしますけど」
甘い味の水飲んだだけで、意外と楽になるもんだな。つーても、こうしてるとまたくらーとかゆったりした揺れで気持ち悪いのが復活、とかしそうなんだが。
「少し外に出るか? 風に当たれば、気も紛れるだろうし」
「あー……そうですね。ここで戻すのもアレですし」
「そこか?」
「確かに、寝台で戻してしまっては後始末が大変だけど」
アオイさんが突っ込み、ムラクモがノリ。何だろうこの芸風、俺たち漫才トリオか何かか。いや、それだけ息が合ってきてるんだろうけどね。それなりに、一緒にやってきてるから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます