188.荷物をおいたらまずは飯
ネネさんがラモットに俺たちの到着を連絡するってことで、別行動になった。で、その間に俺たちは屋敷の中を案内される。
「こちらが殿方用じゃ。お嬢様がたは、こちらを使うてくれ」
通された客間は、結構広そうな感じだった。廊下からやっぱり庭が見えて、そこに生えてる木にはやっぱりいたよ、伝書蛇。綺麗な若葉色で、翼がちょっと小さい子だった。
『わーい、こんにちはー』
『しばしのあいだ、おせわになります』
「しゃあしゃ、しゃあ」
「はあ……いろんな子がいるのはいい……」
タケダくんとソーダくんが挨拶すると、その伝書蛇もぱたぱた翼を羽ばたかせてからぺこりと頭を下げてくれた。うん、使い魔同士も仲がいいのが一番だよな。あとムラクモ、例によって顔が溶けてるから落ち着け。
「ははは、そちらの嬢ちゃんはよほど使い魔が好きなようじゃな。よいよい」
「済みません……以前はここまでひどくなかったのですが」
「かまわんよ。それで危害を受けるわけでもなし、うちの子らも好いてくれる相手は喜んで守るでな」
カイルさんが頭を下げるのに、大公さんは楽しそうに手を振って返す。ああ、そうか。自分を好きでいてくれるなら、頑張って守ろうとか思ってくれるのか。
……カイルさんはどう思ってんだろ、と何となく思った。何でだ、俺。
「風呂はこちらの扉の向こう、厠はあちらの突き当たりにあるでな。客間側専用じゃから、好きに使うてくれてよいぞ」
「カワヤ?」
何となく思ってたのを、とりあえず吹っ飛ばす。ちょっと聞き慣れない言葉聞いたような気がして、口の中で繰り返した。……のに、このショタジジイ耳は良かったらしい。
「お若いさんには分からんか。トイレじゃよ、トイレ。ちゃんと男女別であるからの」
「あ、トイレ。済みません、知らなくて」
「よいよい。わしが爺じゃからの、ちょーっと古い言葉使うのが悪いんじゃ」
いやほんと、ごめんなさい。もしかして、国語の授業でやったかもしれないけど覚えてねえや。
授業、か。こっちでも勉強はするんだけど、あんなふうに制服来て学校行って教室で受ける授業って、もう縁がないんだろうなあ、俺。こっちでそういう学校とか、聞いたことねえもん。小さな塾みたいなのはあるらしいけど。
ま、戻れねえ昔のこと考えててもしょうがないしな。とりあえず、荷物を置くために扉を開けて中に入った。
「お邪魔しまーす……あ、ベッドが低い」
「本当だな。いや、室内はなかなか涼しいぞ」
ユウゼの俺の部屋よりも、壁に壁紙貼ってあったりとかすだれみたいのが窓にかかってたりして、やっぱり日本っぽい感じ。土足なんだけどな、まあこれはしょうがねえ。玄関で靴脱いで入ると、靴の中に毒持った虫とかサソリとか入ってくることあるんだってさ。さすがサバンナから砂漠地帯。
けど、ベッドにある上掛けは普通に毛布なんだよね。夏の夜ならタオルケット……はねえけど、それに近い薄いやつじゃないかなあと思ったんだけど。実際、案内してくれてる大公さんはこんなこと言ってるし。
「夏も盛りを過ぎておるからの、まだ過ごしやすい時期でよかったのう」
「てことは、真夏ってやっぱり暑いんですか」
「うむ。肌や髪の手入れはかなり大変じゃぞ」
あー、やたら天気良すぎると傷むよなあ。俺なんか髪黒いから熱溜まって暑いの何のって。カイルさんとかラセンさん、髪色明るいから羨ましいなあと思う。
「ただ、ここらへんは乾燥しておるせいもあって夜はかなり冷える。わしの館は、緑がある分マシじゃがの」
「あー。それでこの毛布、ですか」
「そうじゃ。寒かったら、わしに言うてくれれば引っ張り出してくるでな」
うわあ、そうなんだ。つか、毛布かぶって寝ないと寒いくらい冷えるってどんなんだよ。昼と夜で気温差激しすぎるだろ。今はともかく、昔の人大変だったろうなあ。
というか、大公さんに言うのか?
「……普通は、使用人に願い出るものではないんですか」
「飯と掃除と警備は頼んでおるがの。何しろ年寄りじゃからな、何もせんと身体が鈍るんじゃ」
ムラクモの疑問に大公殿下は、かっかっかと昔の時代劇で見た爺さんみたいな笑い声を上げながら答えた。ぱっと見ローティーンなんだけど、鈍るのかその身体。俺より肌ツヤもいいと思うんだが。
その後、お昼を頂いた。えらいさんちのご飯なんでまた床かなって思ったんだけど、普通にテーブルと椅子だったのでちょっとほっとしたり。でも、テーブルも椅子も結構頑丈なものだと思う。
並べられたのはラモットで出たのとよく似た、シノーヨの料理。大皿で出たのを、皆で取り分けて食べる。うーん、腹減ってるから飯うめえ。
「テーブル席もあるんですね。来る途中でもありましたけど」
「床で食うのは、客人をもてなす宴の時くらいじゃのー。普段はこうじゃな。何しろ、人の器を蹴っ飛ばす可能性もある」
「あ、そりゃ大変だ。もったいないですもんねえ、納得しました」
「俺、師匠んとこで世話になってた時にやらかしたことありましてね……あん時は、姐さんに半殺しにされました……」
大公さんの答えとあっさり納得したタクト、頭を抱えたグレンさんを見比べて肩をすくめる。というか、グレンさんがすこーんと食器蹴っ飛ばした光景を想像したら、頭を抱えたくなるよねえ。うん、やらないとはとても言えない。
空っぽの皿とかならともかく、飲み物入ったグラスなんてひっくり返したら大変だもんなあ。なるほど。
「あと、わしが食うのが大変でな。身体が小さいんで、床に広げられると欲しいもんに手が届かん」
「あー」
「お取りしますよ、そのくらいでしたら」
カイルさん、何かそこまで世話しなくていいと思う。けどまあ大公さん、ほんと小柄なんだもんな。何気にあれ、すっげえ面倒なのか。
『おにく、おいしー』
『わたしたちのものはあじがついておりませんが、しっかりしていてあまみがありますね』
「しゃしゃあ」
そんなことは気にしないタケダくんとソーダくんの所には、さっきの若葉色の伝書蛇が一緒に来てご飯食べている。たくさんいる上にお屋敷の警備を担当してる関係で、食事は交代制だそうだ。
「その子はイザナという。また他の子らもおいおい紹介するが、仲良うしてやってくれな?」
『いざなくん? ぼくたけだくん、よろしくねー』
『いざなどのですね。そーだくんともうします、よろしくおねがいします』
「しゃあ、しゃしゃしゃあ」
大公さんに名前を教えられて、イザナというらしい伝書蛇とうちの二匹が仲良く挨拶する。ぺろぺろにょろにょろすりすりとスキンシップかわしてるから、仲良くなれそうでほっとした。
「……そうか、イザナというのか……」
「ムラクモ、水こぼしてる」
こいつはいつものことだから良いけどな、もう。
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