40.小さい嵐
慌てて表に出る。玄関先には誰もいなかったけど、何か変な気配がした。ああ、でも俺には方向とか分からん。分かるのは、肩の上にいるこいつ。
「タケダくん」
『みぎのみちからうらにはいって、そのおくのちっちゃいひろば』
「こっちです」
「頼むぞ、ジョウ」
あー、タケダくんの声が他の人にも聞けりゃ、案内楽なんだけどなあ。結局、俺がナビする形でちっちゃい広場に急ぐことになる。裏道の交差点なんだけど、荷馬車なんかも通るせいか少し広めに空間取ってあるんだよね。だから、広場なわけだ。
まあ、そういうところに広場があると面倒くさい喧嘩なんかも時々起こるわけなんだけど、今日もそうだった。鞘を外さないままの剣を肩に担ぐようにして、グレンさんが四人ばかし向こうに回して睨みを効かせている。いや、他にもいるんだけど地面と仲良くしてるから、とりあえず勘定には入れないことにする。十人近く。
今立ってるのはシンプルなメイドっぽい服着た女の子と、汚れてもいい感じの作業着着た兄ちゃんと、……うちで使ってるのよりちょっと良さげな革鎧着て剣抜いてるおっさん。それと、少し離れたところにむっちりおっぱい強調する、ぴったりしたドレス着た姉ちゃん。あれ絶対ハナビさんの同業者だ、うん。
「おう、遅かったっすね副隊長」
「一人で出たくせに片付けきれんのが悪い」
「あいあい」
アオイさんはグレンさんの横に並び、剣を抜こうとして止めた。鞘に収めたまま、構える。って、どう見ても相手のおっさんガチやる気なんだけど。
というか、アオイさんの今の言い方って、グレンさんならこれ全滅できたってことか? そうじゃないのは……抜いてない剣、がヒントだよな。つまり。
「影響受けてるだけっぽいんで、生け捕りでよろしく」
「知ってる顔ですか?」
「おう。右から金持ち向け服屋の針子、本屋の倉庫番、領主んとこの門番だな。あとあっちの姉ちゃんはハナビの後輩、何気に魔術師の能力持ちだ」
「また近場から調達してるわね……」
あ、アオイさんがうんざりしてる。いや、分かるけど。剣抜いてるおっさん、領主さんとこの人か。後で問題起きなきゃいいけど。てか、魔術師さんって探せば結構いるのかな。
黒の連中、こっちはあくまでも現地調達で済ませるつもりなんだろうか。まあ、神殿のほうがメインだったりしたらこっちは囮だもんなあ。重要メンバーは使わない、よなあ。
肩口でぱたん、と小さな翼がはばたく音がした。
『まま』
「あー、グレンさんの話聞いてただろ。殺すなよ?」
『はーい』
俺が小声で言い聞かせると、小さな蛇は元気に返事してくれた。よしよし。しかし、これでうまくいくかといったらさてどうだろう。
「あら、魔術師まだいたの? けど、無駄よねえ!」
ハナビさんの後輩な姉ちゃんが、分かりやすく女王様っぽく叫ぶと同時に手に光を溜める。と同時に前衛の三人が、一斉に飛び出してきた。女の子と兄ちゃんはアオイさんに、門番さんはグレンさんに。
いや、もちろんこっちだって何もしないわけじゃないぜ?
「せーの。光の盾!」
「しゃあああああ!」
俺とタケダくんが、同時に魔術を発動。俺の光の盾は、アオイさんとグレンさんをまとめてカバーする。その上からタケダくんの口からビームが、姉ちゃんのところへ一直線。
「無駄なのよ、光の盾!」
もちろんそのくらいは予測してただろうから、姉ちゃんも俺と同じように光の盾を張って、タケダくんのビームを防ぐ。多分その向こうで、次の魔術の用意はしてるはず。
そういうことを言えるってことはつまり、俺もその手は予測してたわけだ。即座に、次の手を繰り出す。伊達にカサイ・ラセンの弟子やってねえし、発動はこっちのが早いぞ。
「風の舞!」
「きゃあっ!」
続けて出したのは、風の魔術。名前はかっこいいけど、ほらあれだ。風でスカートめくりなんてやらかす漫画が大昔にあったらしいけど、それのきついバージョン。足元すくってバランス崩すくらいはできるんだぜ。
まだ制御とかの関係もあって、対個人しかできないのがあれなんだけど。ともかく、姉ちゃんを転ばすことには余裕で成功した。大きいお尻を地面にぶつけて痛いだろ、魔術の発動もやりにくいっていうか今のでひとつキャンセルできてる、と思う。
『おねんねしちゃえー!』
再度の口からビームが、起き上がりかけた姉ちゃんのみぞおちを見事に直撃した。ごっ、という声だか音だか分からない何かを口から吐き出して、姉ちゃんはぐたっとノックアウト。よし。
で、俺が一人相手にしているあいだに、他の二人は。
「はっ、このくらいなら十人でも平気だねえ」
アオイさんはお針子さんを一撃で落とした後、倉庫番さんとガチで組み合った末ブレーンバスターでKOしたらしい。いや、こっちでもブレーンバスターって言うのかどうだか知らないけど。というか、倉庫番さん無事なのか?
「いや、下敷き使ったし」
「下敷きって、先に転がってた人ですか……」
それはそれで、下敷きにされた人のほうが心配なんだけど。
片や、グレンさんは。
「うがああああ!」
「誰だ剣士を黒にしたのはあ!」
半ば悲鳴みたいな叫び声上げつつ、普通にちゃんちゃんばらばらやり合ってた。ただ、門番さんが剣ばっか使ってるのとは対称的に、グレンさんは足も使うし拳で殴ったりもする。ので、ちゃんと押し気味だったり。
「領主殿への謝罪は付き合う。さっさと終われ」
「はいよ!」
アオイさんが苦笑してそう言った瞬間、グレンさん目つき変わった気がする。ぐんと姿勢を低くして、門番さんの足元を剣ですくった。完全には切れてないけど、両足首からぷしゃっと血が吹き出す。途端、門番さんががくんと身体を崩した。
「があっ!」
「正気に戻ったら、もうちょっとしっかりしやがれ!」
って、トドメが腹への頭突きってどうよ?
ともかく、こちらもぐ、とかご、とか変な声を上げて、力を失った。あ、グレンさんの上に倒れこんじゃったよ。起こしに行かないと。
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