カクリシへ―神々隠南部泉伝説―

小宮雪末

序章

あのひとの空の下

 今の今まで赤く焼けていた空が、ふつりと彩度を落とした。

 黄昏時の横瀬オウセ中学校の正門の傍らには、白のスカーフと二重ラインが走った襟の黒いセーラー姿の少女がいる。

 腰まで真っ直ぐに伸びた黒髪に、真っ白な肌。瞳は髪以上に黒々とし、人形のように整った顔を一際無機的に見せていた。


――間もなく、下校時間です

――校舎に残っている生徒は、生徒手帳の登下校ルールを守り、気をつけて帰りましょう


 奇妙な校内放送が響く中、ほんのりと紅かかった唇が動く。


「りょうちゃん」


 柔らかく、おっとりとした声質だった。

 しかし気色が悪い。口調こそ親しげだが、欠片も相手を「同じ生き物」だと思っていないような響きなのだ。

 呼ばれた相手は、学校の昇降口から少し進んだ所で立ち尽くしていた。

 決して優等生ではない風貌の少年だ。

 地毛の黒髪を茶とツートーンにし、ウルフカットにしており、黒い学ランは前を開けている。

 覗くシャツは豹柄。首には金色のチェーンネックレスが鈍く光っている。

 慌てて来たのか息は荒く、荷物もノート一冊だけはカバンに入れず、手に鷲掴んでいた。

 「りょうちゃん」ともう一度、少女の唇が彼の名前を呼ぶ。


「何があっても、オレは受け入れるけど」


 瞳を揺らし、途方に暮れたように少年は呟く。


「オレはあのひとを、どう受け入れたらいいんだよ」


――間もなく、下校時間です

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