かくもフツウは難しい
@mrkk_
第1話
「私は空想なんぞ信じませんね」
真面目な男はいつも言う。
「竜だの吸血鬼だの、そんな想像上の生き物はいませんよ」
頑固で冗談が通じないと評価される典型的な堅物で、仕事一筋とくに趣味もないと噂されるのも当然の流れ。
「そうだな。私も同感だよ」
「お疲れ様です。お先に失礼いたします」
今日も完璧な業務報告を受けて、特に問題はない満足な上司は、いつも通りの相づちを打った。
2人は思うのだ。
竜も吸血鬼も、想像とは違うのだと。
空想は人間の特権で、実際を知るなら架空は不可能なのだ。
同族の竜を燃やし尽くした男と、故郷の吸血鬼を灰燼に帰した女は、たまたま第二の生を人間でと定め、出会った。
今度は真面目に、静かに、特筆すべき能力など持たずに、普通に生きようと。
飛び抜けるから狙われるのだ。
変に正義感など出さない方がいい。
悪は野放しにすればいい。
狙われたら逃げればいい。
くだらないなら見なきゃいい。
この世界は、竜も吸血鬼も嘘っぱち。
味わった過去は、御伽噺としてでさえ誰も知らない、単なる記憶の断片だった。
◇
「私は、自分と自分の故郷のことはよく知ってますよ」
「私もだな」
兎角、人間は弱いのだ。
今は人間の2人は思う。
「自分以外のことは大して知らない。あなたのことは少ししか知らない」
「同じだよ」
これは危機だろうか。
ああとうとうこうなったかとか、所詮自分は自分からは逃れられないのさとか、自嘲して肩でもすくめるべきか?
「「はっはっは」」
それすらできないから弾かれたわけで。
その程度の、並外れたと言えるくらいの凄さなら、自分以外を滅ぼしたりはしなかった。
仲間と呼べるものがいない未来は、選ばなかった。
「竜は大群で人間を襲いに来たりはしませんね」
「吸血鬼は片っ端から人間を眷属に変えたりはしないのさ」
人間がよく思う概念を否定する。
だって、竜は私しかいない。
すでに、吸血鬼は私だけ。
なら、あれらは何だろう。
押し寄せ、人間を喰いたそうな、襲来者は。
「「何だろうな」」
竜の大群と吸血鬼の群勢に見えるあれは。
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