15. 神話級タイトルマッチ
「喜んでる場合じゃないよ! あんなのどうしたらいいんだよぉ」
ユーキは真っ青になって頭を抱える。
ゴーレムはすごくゆっくりながら一歩一歩、麦畑に一キロはあろうかという大穴を作りながら街へと迫ってきているのだ。
「あたしは宇宙最強だからね。あんなの一発で吹っ飛ばしてやるのだ!」
シアンは窓から腕を伸ばすとゴーレムに向けて巨大な魔法陣を展開した。魔法陣は莫大なエネルギーを充填しながらまばゆいほどに輝いていく。
「ちょ、ちょっと待って! そんなの撃ったら街にも影響あるんじゃないの?」
魔法陣に込められた膨大なエネルギーが直視できない程鮮烈に輝き、パリパリと辺りにスパークを放っている様子を見て、ユーキは青ざめる。
「え? まぁ……飛び散った岩くらいは降ってくるかなぁ?」
「岩? どのくらいの?」
「百メートルくらい? きゃははは!」
ユーキは唖然とした。そんなのが降ってきたら街は壊滅だ。多くの人が死んでしまう。
「ダメッ! マズいよ!」
ユーキは慌ててシアンの腕にしがみついて止めさせる。
「えーーっ! じゃあどうすんのよ?」
シアンは途中まで充填したエネルギーをパウッ! と、空へ向けて捨てると、口をとがらせる。
「あいつを力で押し返すとか……」
「あんなのどうやって押すのよ! 山よりはるかに大きいのよ?」
「シアンも山より大きく……なれないか……」
「レディーに大きくなれって随分失礼だねっ! そもそも、そんなにでかくなれる訳ないじゃ……」
シアンは腕を組み、ユーキをにらんでいたが、ふと何かを思いつく。
「なれ……る?」
視線をテーブルの上にある皿に移し、何かを考えこむシアン。
ポン! と、手を打ち、ニヤッと悪い顔で笑ったシアンはテーブルに駆け寄ると、食べ残しの鹿肉のステーキを素手で掴んでむしゃむしゃと食べ始めた。
「うほぉ! 美味いぃぃぃ!」
シアンは黄金色に輝きながら舌鼓を打った。
「何やってるんだよ! この緊急事態に!!」
ユーキは眉をひそめた。
「ちょっと、デザート持ってきてくれる?」
「え!? デ、デザート!?」
「いいから早く!! 全部よ!」
シアンは有無を言わせぬ鋭い視線でユーキをにらんだ。
◇
トレーに入ったティラミスを急いで持ってきたユーキ。オレンジピールを効かせた大人も唸る自慢のデザートである。
「こ、これだけど……」
ユーキはシアンに差し出す。
「うほぉ、これは美味そうだ!」
シアンは碧い目をキラキラと輝かせながら、取り分け用のでかいスプーンでゴソッとすくい上げると一気に丸呑みした。
ほわぁ……。
そのチーズ、生クリームの芳醇なコクの向こうに浮かび上がる、ノド越し豊かなオレンジのフレーバーにシアンは恍惚となり、鮮やかな黄金色の輝きに包まれる。
「全部貸して!」
シアンはユーキからトレーを奪い取ると、ガツガツと一気食いしていく。どんどん黄金色の輝きが増し、部屋の中がまぶしくて目を開けていられないまでになった。
「ヨシッ! シアン、行きマース!!」
そう叫ぶとピョンと窓枠に跳び乗り、そのまま一気に夕空へと飛び上がった。
「えっ!?」「へっ!?」「な、なんだ……?」
いきなりの出撃に一同は一体何が起こったのか分からなかった。
一直線にゴーレムへと飛んで行くシアン。しかし、どんどん遠くなっているのに、むしろ大きく見えていく。
「ど、どうなってんの?」
その巨大化していく後姿を見ながら、ユーキはトリックアートを見せられているような不思議な錯覚に陥り、不安に包まれた。
やがて、ゴーレムのところまで達したころにはシアンの身長も十キロメートルにまで大きくなっていた。
直後、シアンは足を前に、ドロップキックの体制になるとそのままゴーレムのボディーに突っ込んでいく。
ズーン!
激しい衝撃が発生し、衝撃波が麦畑を同心円状に渡っていく。
「対ショック姿勢! 耳ふさいで!!」
レヴィアはそう叫ぶと壁の裏に隠れた。
「ひぃぃぃぃ!」「いやぁぁぁ」「うはぁぁぁ」
ユーキも国王たちも慌てて安全なところに隠れ、小さくなって耳をふさいだ。
刹那、離宮の建物がズン! と揺れ、窓ガラスが全部吹き飛んでいった。
キャァァァ!
王女の悲鳴が響き渡る。
「くぅぅ、なんという戦いじゃ……」
レヴィアが何もなくなった窓枠からそっと様子を見ると、ゴーレムの巨体がゆったりと向こう側へと倒れていくところだった。
直後、今度はゴーレムの一兆トンの体重が麦畑を直撃した衝撃が地震としてやってくる。
「うひぃ! 勘弁してよ……」
ユーキは柱にしがみつきながら泣きそうになった。まるで神話に出てくるような山よりも大きな者たちの戦い、それは発生する衝撃波だけで周りを破壊に巻き込む壮絶なスケールの戦いだった。
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