14. 一兆トンの衝撃

 夕暮れの空に浮かび上がる漆黒の巨大ドラゴンは、ゆったりと壮大な翼をはばたかせ、街全体に響き渡る凄まじい咆哮を放つ。


 ギュワァァァァ!!


 その腹に響く重低音に魔物たちはひるむ。この世界のゆるぎなき頂点をほしいままにする伝説の生物、ドラゴンに魔物たちは本能的に抗えない。


 レヴィアは輝き始めた月に首を伸ばしながら大きく息を吸うと、パカッと中庭に向け、その巨大な口を開いた。


 ゴォォォォォ!


 一億度を超えるすさまじいプラズマジェットの炎が一気に魔物たちを包んでいく。


 グァァァ! ギュワァァァァ!


 魔物たちの断末魔の叫びが王宮に響き渡る。


「あ、あなた……」「お、おぉぉぉ……」


 王妃は、まるでこの世の終わりのようなすさまじい殲滅せんめつ劇に戦慄を覚え、国王の腕にしがみつく。


 国王は首を振りながら燃え上がっていく中庭を唖然としながら見つめていた。


 ドラゴンが味方だったから安堵していられるが、もし、敵として現れていたらあっという間に滅ぼされていただろう。それほどまでにレヴィアのドラゴンブレスは圧倒的で、全てを焼き尽くしていった。


 しかし、ゲートはまだ開いたままであり、次々と魔物は出てきてしまう。


「アレじゃキリがないゾ」


 シアンはそう言うと、ユーキに手を差し出した。


「え?」


「クッキーだよ! クッキー! 僕にもちょうだいよ!」


「あ、ゴメン。はい!」


 シアンはクッキーを口にほおばると、フン! と気合を入れ、全身を黄金色に輝かせる。


「んー、んまい、んまい! 君のクッキーは最高だね!」


 シアンは上機嫌に腕まくりすると、窓からゲートに向けて腕を伸ばした。


「さーて、いいとこ見せちゃうぞー!」


 そう叫ぶと、シアンは腕から激しく青く輝くエネルギー弾を放った。パウッ! という破裂音と共に光跡を描きながらゲートに着弾すると大爆発を起こす。その衝撃はすさまじく、激しい地鳴りと共にゲートは紫色の炎を揺らめかせながら消えていった。


「うーし、どんどん行こう! レヴィア! 危ないぞーー!」


 シアンは次々とエネルギー弾を放っていく。


 へっ!?


 魔物を追いかけ、掃討していたレヴィアは次々と降り注ぐエネルギー弾に焦った。


「あ、危ない! 危ないって!!」


 レヴィアは必死にエネルギー弾を避けながら上空へと逃げていく。


「それそれそれ! きゃははは!」


 シアンは楽しそうに次々とエネルギー弾を放ち、ゲートも魔物も一掃していった。



        ◇



「あー、楽しかった!」


 シアンは満足げにそう言うと、勝手に紅茶カップから紅茶を注いで美味しそうに飲んだ。


「『楽しかった』じゃないですよ! あんなの当たったら即死じゃないですか!!」


 少女に戻ったレヴィアは真っ赤になって怒る。


「大丈夫だって、避けられる弾しか撃ってないからさ」


「かすったんですけど? かすったんですけど!!」


 レヴィアはうでの赤くなっているところを指さし、頭から湯気をたてながら主張した。


「え? ちちんぷいぷいのぷいー」


 シアンはそう言って楽しそうにレヴィアの腕をさすった。


「もう! いいです! 私はもう後衛しかやりませんからねっ!」


 レヴィアはシアンを振り払うと腕を組んでプイっとそっぽを向く。


 その時だった。


 ズン!


 空間全体が震える不気味な振動が街を貫いた――――。


 へ? む?


 シアンとレヴィアは顔を見合わせ、眉をひそめた。それは物理的にあり得ない高次のレイヤーの空間振動だったのだ。


 慌てて二人は窓際へと走り、辺りを見回した。すると、遠く山の連なる方に縦に長大な紫色の光の筋が走っている。


「はぁ!?」「あ、あれは……」


 光の筋はみるみる稲妻のように多くの枝分かれをしつつ長く伸びていく。それは夕焼雲を突き抜けながらはるか高くまで達していった。それは空間の亀裂だった。


 直後、その亀裂を引き裂くように岩でできた巨大な腕が現れ、やがてその姿を現す。それは全長十キロはあろうかという超巨大ゴーレムだったのだ。


 広大な麦畑に降り立ったゴーレムは、その一兆トンを超える恐るべき体重で激しい地震を引き起こす。


 安山岩のようなグレーな岩で構成された体はずんぐりむっくりとして、赤く光る丸い目の付いた頭に、異様にごつく長い腕が不気味さを演出していた。あんな腕で殴られたら街などあっという間に更地にされてしまう。


「うひゃぁ! こりゃぁ大物だなぁ。きゃははは!」


 シアンは初めて見るその巨大ゴーレムに嬉しそうに目を輝かせた。

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