偽物女帝は今度こそ最推しを幸せにしたい
永久保セツナ
序章
第1話 難易度の高い乙女ゲー
「はぁぁぁぁぁぁ!? ホントありえない! なんなの、このゲーム!」
ここは大学の敷地内にあるサークル棟の一室。彼女は創作サークルに所属していて、大学の講義がないスキマ時間にはよくここに足を運んでいる。
この部室には卒業生が寄贈した小さなテレビと、在学生の有志が持ち込んだゲーム機が置かれていて、みんな思い思いのゲームソフトを持ち寄って遊んでいた。
そこで鈴華が何のゲームをプレイしていたかと言えば、いわゆる乙女ゲーだ。世界観は中華ファンタジーで、プレイヤーは皇族のひとりに戦績の褒美として与えられた美女を主人公として操作する。攻略対象は「四皇子」と呼ばれている、皇子の四人兄弟。鈴華の推しは主人公が褒美として仕えることになった次男の皇子である。
ただし、このゲーム、かなり厄介な設定になっていた。
まず、主人公と攻略対象たちが暮らしているこの国自体がゲーム開始時点で既に傾きかけている。
そして女帝の魔の手は四皇子にまで伸び、皇子たちは次々と殺されていくのだ。生き延びるルートに入っても様々な要素が複雑に絡んでいて、敵国に侵攻される、民草が暴動を起こすなど多彩なシナリオの全然嬉しくないバリエーションが多数用意されており、どのみち国は滅びてしまうのであった。誰とどんな恋をしてもほとんど悪役無能女帝のせいでバッドエンドを回避するのが難しいという鬱ゲーである。あまりにも攻略難易度が高すぎて、鈴華はとうとう音を上げてしまったところなのだ。「これはもう、乙女ゲーという名ではあるが、ただの鬼畜レベルで激ムズなシミュレーションアドベンチャーゲームでは?」というレビューで埋め尽くされていそうな勢いである。ゲーム開発元は恋愛させる気がないのでは? なんでこんなもん作った? しかし、推しを攻略したい一心で鈴華はこれに必死で食らいついているわけである。「こんなゲームにマジになっちゃってどうすんの?」と言われても、このゲームの世界にしか自分の推しが存在しないのだ。何たる悲劇。何たる不幸。
「マジでこの女帝さえいなければよォ〜!」
「なに、前情報無しにこのゲームやってるわけ?」
イライラで口調が乱暴になり、とても人様には見せられない顔をしている鈴華に、後ろから見物していた女友達が話しかけてくる。
「おうよ、ゲーム屋で見かけたパッケージの推しに一目惚れして即パケ買いよ」
「攻略サイト見ればいいじゃん」
「やーだー、自分の目で展開見なきゃつまんないー!」
そう言いつつ、ゲームの中の推しはもう十回ほどは死んでいる。鈴華は目の前で何度も推しを守れなかったストレスと同時に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「あっそ、じゃあせいぜい推しを救えるように頑張りな。ほら、そろそろ昼休み終わるよ。今日一緒の講義でしょ、早く行こ」
「はーい」
鈴華は唇をとがらせながらゲームソフトをパッケージにしまい、カバンに入れた。きっと、彼女は講義を聞いている間もゲームの攻略方法について考えることになるだろう。どうしたら推しを救済できるのか。自分はいったいどこで間違えたのか。あの選択肢を選べばよかったのだろうか? そもそもこのゲームにハッピーエンドなど存在するのであろうか……?
そうして、日常から頭の中をその乙女ゲーに支配され、ゲームにのめり込みすぎた彼女は、不思議な体験をすることになるのである。
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