砂は水の夢を見る
遠部右喬
さあ、行こう
第1話
見渡す限り、どこまでも砂の牢獄だった。
風はごうごうと空高く薄黄色の砂を巻き上げ、舞い上がった砂粒は、空の青に届く前に再び重さを得て、薄黄色の大地に還っていく。時折植物も見られたが殆どが砂に埋もれ、強い日差しは、膝を抱えた子供ほどの岩陰にくっきりと黒い影を落としている。その影は小さな命達の営みを内包しているが、それも密やかなものだ。
ごう。
風が唸る。
「もう、いやあ!」
風の止んだ寸の間に聞こえて来た、叫びと言うには酷く掠れた女の声が、再びのごうっという風の雄たけびにかき消される。
声の主は、砂に足を取られながらよろよろと進み続ける。それは歩くと言うより、よろけたはずみに次の足が前に出ているだけといった
いつから彷徨っていたのか。
風にあおられ、すっかり砂埃まみれの彼女は、それでも美しかった。ぼさぼさになってしまった金色の長い巻き毛も、小さな顔の中で輝く深い緑の瞳も、元は真っ白だったであろう服から覗く華奢な手足も、砂から掘り出されたばかりの繊細な立像のようだ。
その美しい脚が、とうとう止まった。
「一体、どうなっているの……」
彼女は小さく呟き、そのままゆっくりと倒れ込んだ。
その身に、薄黄色の粒子が降り積もる。
ふと、砂に埋もれかけた彼女を覗き込む影がひとつ。
「…………」
影は首を傾げ、彼女の上から砂を除け始めた。
*
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