ちょっと頭のおかしい短編集
とてぬ
突然の別れ
それは突然の別れだった。
グミをひとつコンクリートの上に落とした。
中途半端に手をつけなかったのがいけなかった。
手で触り、残ったパウダーもすべて舐めてしまうくらいの覚悟は必要だったんだ。
空腹を満たすために、いつも携帯していたパウダー多めのグミ。オレの大好物。
そりゃあ、一粒だって無駄にしたくないさ。
一体どこから間違ってたんだろう。
家にもうすぐ着くというのに赤信号の待ち時間を利用して食べようとしたせいか。
公共交通機関を利用したあとの手を妙に気にして、手で触れるのを避け、袋を傾けながら口に放り込もうとしたせいか。
思えば、前にもこのようなことがあったような、それで今度こそはミスらないと心に誓いを立てたような。
まあ、今さら考えたところで何も残らない。
オレにできるのは、せいぜい袋の中に取り残されたオレに食べられる哀れな運命を背負わされた烏合の衆に慈愛の念を抱いて食すぐらい。
「ねえ、聞いてる?」
そもそもとして、
「ねえ!」
耳を突き刺すような声に従って意識を向けると、彼女のほのかに上気した顔が目の前に迫っていた。
「あ、う、ごめん。聞いてなかった。えっとなんて?」
「っ! いつもそうだよね。わたしの話なんてそっちのけで、どっかにいっちゃう。もうこりごりだよ。あのさ、別れよう」
オレは食道にグミが詰まったかのように声が出なくなった。
いつもの調子で弁明などすべきなのに。
それは突然の別れだった。
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