第四十三話『明日の予定-Tomorrow never comes-』

 ある所に生活態度せいかつたいどがなっていない女性が居た。

 生活態度がなっていないとはどう言う事かと言うと、朝寝坊するのは当り前、部屋は汚いし、ゴミ出しはしない、物を捨てる事が出来ないし、掃除は年に一度、そして何よりも予定を立てたり守る事が弩級のヘタクソ。

 そのくせ衝動買しょうどうがいは頻繁ひんぱんに行なってしまう性分で、今日も日課のウィンドーショッピング(本人談)を行なっており、必要も無いし、そもそも置き場所も無いアレやコレやを購入こうにゅうしてしまう。

 そう、彼女の部屋は水が湧く泉ならぬゴミが湧く部屋。

 いや、ゴミを投げ込んだらもっとすごいゴミが倍になってくる泉の様な有様なのである。

 そんな彼女だが、一応恥も外聞も有る。

 実のところ、自分の汚部屋を誰よりも汚いと感じ取っているのは彼女自身なのである。

 整理整頓出来るものならば、自分の手でやりたいのである。


 そんな自堕落じだらくな生活の最中、彼女はあるうわさを知人から聞いた。

「そのお店、ガラクタやイミテーションを売るゴミ屋なんだけど、極々一部だけが並んでいるんだって。今度一緒に行ってみない?」

「ホンモノって何のホンモノ?」

 だらしがない女性はいぶかしみの色を示しながらも、興味津々で知人にたずねた。

 噂話なんて物は、うそか真かはどうでもよく、娯楽足り得るから噂話なのだ。

「それがね、その店を知っているって言う人が言う事には全然バラバラなのよ。ある人は恋人が出来るお守りって言うし、ある人は呪いの人形だって言ってて、他には自分に催眠術さいみんじゅつをかける本だって言う話とか?」

 知人の女性は楽しそうに、しかし本人も半信半疑と言った様子で答えた。

「ふーん……じゃあ物見遊山がてら、この後行く?」

「あ、ゴメン。今日、この後は別の予定があるの。それにどうせ噂なんて嘘ばっかりだし、お店は明日でも行けるしね」


 だらしがない女性が知人から聞いた場所へ足を運ぶと、一軒の小物屋が目に入った。

 壁面にツタが這って幻想的な雰囲気のする、昔の映画かアニメで見る様な、可愛らしくて整った外観の小さな店で、店の中にととのった商品棚しょうひんだなに様々な品物が載っているのが見えた。

 だらしない女性が店の中に入ると、中に居た店主らしいイブニングドレス風ですみを垂らしたような黒い長髪の女性と目が合った。

「あら、いらっしゃい。どうぞご自由に手に取ってごらんくださいな」

 店主らしい女性は、だらしがない女性をにこやかな表情ひょうじょう一瞥いちべつして言った。

 だらしがない女性が商品棚を見ると、噂で聞いた通りのお守りらしきアクセサリー、どことなく曰く付きの様に見える女の子のぬいぐるみ、どことなく荘厳そうごんな雰囲気を感じる文庫本サイズの鍵付かぎつき日記帳などが見えた。

(これはひょっとして……さっき聞いた通りの本物の?)

 だらしがない女性は握った汗に手が走り、心臓しんぞうが軽く鼓動をあげるのを覚えた。この店は本物の魔法の道具を売っている! もしそうならば、私は自分のだらしない性分を消し去れるかも知れない!

 そんな希望が見えたと思うと、握る拳は増々固く、心臓の鼓動はさらに高くなった。

「あ、あの! このお店は本物の魔法の道具を売っているって言うのは本当ですか?」

 だらしがない女性は緊張きんちょうしながら店主らしい女性にたずねると、彼女は柔らかな笑みを浮かべて答えた。

「ええ、この店にあるのは全て本物よ。その商品を本当に欲しいと思っている人に、誰にでもお売りします」

 これはただのセールストークか、しかし店主らしき女性の顔と言葉からは何とも言えない安心感と説得力が感じられた。

 そう、この店の噂を流した人々は、この店の商品に魅力みりょくを覚え、この店に言及せずにはいられなかった……そんな感覚さえ覚えた。

「じゃ、じゃあ! 私の、その、生活態度を改められる魔法はありません?」


 だらしがない女性が自宅に帰って来た。

 彼女は我が家を見て、酷く汚い部屋だと感じた。

 しかしそれも今日まで……いや、明日まで!

 彼女の手には新品の日記帳が握られており、これはかの店主の言葉曰く、強制力を持った日記帳なのだそうだ。


 * * *


『では、この日記なんていかがかしら? これは強制力の有る日記帳、この日記に明日の予定を書くと、この日記の所有者はそれを絶対にしなくてはいけないと言う強迫観念きょうはくかんねんおそわれるわ。この日記が鍵付きなのも、それが理由。でも絶対の強制ではないし、万一誰かに自殺すると書かれたとしても、死にたくなるだけで、日記の文章を消すなり焼くなり破くなりすれば強制力を失うの』


 * * *


 店主の女性が言った事が本当ならば、この日記に自分の生活態度を改める内容の事を書けば、自分のこの腐った性根と住まいは綺麗きれいサッパリ清掃される事だろう!

 だらしない女性はそう考え、心は羽が生えた様に軽くなった。

「よし、やるぞ……明日、早起きして洗濯せんたくをする。衣類を全部! これでよし!」

 これで一安心だ。と、だらしない女性は最低限の身だしなみを整えた後、寝食を行なった。


 ある所に生活態度がなっていない女性が居た。

 生活態度がなっていないとはどう言う事かと言うと、朝寝坊するのは当り前、部屋は汚いし、ゴミ出しはしない、物を捨てる事が出来ないし、掃除は年に一度、そして何よりも予定を立てたり守る事が弩級のヘタクソ。

 彼女は今日も変わらず、朝寝坊をして寝ぼけ眼をこすった。

「げえっ! もうこんな時間? あの日記は? あの店は結局詐欺だったの!?」

 だらしない女性が日記帳を見ると、確かに自分の筆跡で『明日、早起きして洗濯をする。衣類を全部』と書いてあった。

 この文章を見て、昨日の出来事が夢でも何でもない事を悟っただらしがない女性の胸中きょうちゅうには詐欺だと言う疑いではなく、ある別の思念が浮かんで来た。

「まあいっか、

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