第二十九話『親なき仔-chicken or egg situation-』
壁面にツタが這って幻想的な雰囲気のする、昔の映画かアニメで見る様な、おまじないの品々を取り扱う小さな小間物屋があった。
店の中には、飾り気の無いシンプルな黒のイブニングドレス風の姿をした
店内は
「そうそうカナエ、『卵が先か、ニワトリが先か』って思考実験はご存知かしら?」
そう話題を振った店主の女性の言葉に、従業員の青年は言葉を返す。
「えっと、それが思考実験だって言うのは初めて聞きました。でも言葉の意味は想像がつきます。卵はニワトリが生む物だからニワトリが先に存在しないと存在できない、でもニワトリは最初は卵だったから先に卵が存在しないと存在できない……それで合ってますよね?」
従業員の青年の言葉に、店主の女性は
「ええ、そうよ。意味が分かるなら話は早いわ。そして思考実験なんだけど、学説や伝承によってはどちらが先か変わるわ。遺伝学だと卵が先なのが有力説、化学ではニワトリが先って言う話で、聖書だとニワトリが先になるし、インド神話では卵が先だったかしら? 仏教やインド神話やエジプト神話にアステカ神話なんかだと、どっちも先ではないと言われているそうよ。いわば、定義によって正解が変わると言うのが正しいのかしらね」
店主の女性はそう語ると、自らが座していたカウンターの席の下から決して小さくはないがコンパクトなトランクを取り出した。
「ちょっと手を止めて、これを見てくださらないかしら? 実はカナエに見せたい面白い物があるの」
従業員の青年は言われた通りに手を止めて、カウンターの方へと近づいた。
上司の指図だから従ったと言うよりは、彼にとっては彼女は親しみや
即ち、彼女が面白い物が有ると言ったならば、それが彼を
店主の女性を
「卵ですか、これは
ソレは一見すると、
ただ、一目で卵と理解出来る造形でもあった。
大きさは
従業員の青年は
何せこの店は
つまり、この卵はタダの卵ではない。
「これはね……そうね、何だか分からないわ」
従業員の青年は聞いた言葉が信じられず、店主の女性を見た。彼女は力の
「えっと、それは何の動物の卵か分からない物を引き取った……と言う事ですか?」
「いいえ、それは違うわ。これはね、新種の卵なの。この地球上に現存しない、全く新しい動物の卵」
「全く新しい動物の卵……?」
従業員の青年は店主の女性の言葉が上手く飲み込めなず、彼女の言った言葉を半ばオウム返しにした。
新種の卵と言うなら、それを産んだ動物は何なのだ?
何故その卵が新種の卵だと断言出来るのか?
そもそも新種の卵だと定義している物を何処からどうやって手に入れたのだろうか?
そして、地球上に現存しない生物と言うと、それは一種の外来生物か何かで危険ではないのだろうか?
「ほら、見て! もうすぐ生まれるわ!」
店主の女性が灯が
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