第二十五話『まだ終わっていない証拠-Failure teaches success-』

 壁面にツタが這って幻想的な雰囲気のする、昔の映画かアニメで見る様な、おまじないの品々を取り扱う小さな小間物屋があった。

 店の中には、店員らしいかざり気の無いイブニングドレス風の衣服を着た、すみを垂らしたきぬの様な豊かな髪が印象的な妙齢みょうれいの女性がおり、せまい店内で今まさに接客をしていた。


「その商品が気になるのですか?」

 店員の女性が、商品を興味深そうに観ている客に対して話しかける。

「それは、ホイーラーと言う虫の標本。ホイーラーって名前はご存知無いかも知れませんが、ワームホールと言う言葉は聞いた事あるんじゃないかしら? その虫は、ワームホールを発生させる虫なの」

 店員の女性は、急に荒唐無稽こうとうむけいな事を言いだした。

 何せワームホールである、そんな物を発生させる虫が実在したらそれこそ現代物理学に対する冒涜ぼうとくだ、そのカブトムシの幼虫にも似た白い虫が特異点になって全ての法則がくつがえってしまう。

「いえいえ、本当よ。でも、お客様はこの虫に対して忌避的きひてきですのね……申し訳ありませんが、私共わたくしどもは商品に対して好意的な方にしか商品を売る事が出来ないのです。商品を心から欲しがる人にだけ売る、それがうちのモットーなので……」

 店員の女性は、心から申し訳無さそうな顔と態度で平謝りする。

 それに対して、客は謝らなくて結構だと頭を上げる様うながす、何せ話が本当だとしたら空間に穴をあけて瞬間移動を行なう虫の標本だ、そんな気持ちの悪い混乱の元は絶対に必要無い。

「それでしたらこちらはいかがでしょうか? これは黒猫を集める装置、お客様は猫を飼った事はありますか? なんとこの装置で黒猫を規定数集めると重量が物質の限界たる臨界点を迎えてブラックホールを生成すると言う触れ込みの商品だそうです!」

 笑顔でブラックホール生成装置を勧める店員の女性に、客は内心で忌避感を覚えながら丁重に断った。

 この店は文明崩壊を専門にした武器商店か何かなのだろうか?

「ではこちらはいかがですか? このコショウびん、一見するとただのコショウ瓶なのですが中身は似て異なる粉末で、一度この粉をいだ人達は常用対数的にくしゃみが感染するのです。倍々ゲームの様にくしゃみは大きくなっていき、最後には地震が発生するわ」

 これを聞いて、遂に客は怒り始めてしまった。

 別に店員の女性の話を信じた訳では無い、この店員の口から出るのが性質の悪い世迷い事だらけで聞くにえないと思ったからだ。

 客は店員の女性に愛想を尽かし、店から出て行ってしまった。

「ダメね。うちの商品をキチンと悪用してくれるお客様、どこかにいらっしゃらないかしら……うちの商品を想定通りに使ってくれれば、効率良く人類の人口を減らせる筈なんだけど、その意志が無い人にやらせるのも違うし……」

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