第二十二夜『遺伝計算-blood type harassment-』

 私は血液型占いがきらいだ。

 血液型占いの持つ風潮ふうちょうや社会的影響えいきょうが嫌いだし、血液型占いの成り立ちも嫌いで、もっと言うと血液型占いそのものが嫌いだ。

 別に私がB型だからではない。

 今皆さんは私がB型だと言って、やっぱりそうだと思ったと言うだろう。この様なレッテル張りが嫌いなのだ。

 あんな物は典型的バーナム効果に過ぎない。

 人に水を与えた後、長時間水を与えずにいたら水を異様に欲しがると言った様なインチキだ。

 もしくは、パンを食べた人間の致死率は百パーセントだと豪語ごうごする事に等しい。

 今あなた方は、これだからB型は……と思った事だろう。

 それこそが血液型占いの持つ非社会性、有害性である。

 二十世紀のある政治家は、異なる血液型の輸血を受けると言う医療事故の末に命を落とした。

 彼は社会が血液型占いを信じている故に、他者から特定の血液型だと公表してレッテル張りされる事を恐れて血液型をいつわった故に、その様な医療事故が発生したのだ。

 そもそも血液型と言う概念がいねんが生じたのは二十世紀初頭の事だが、その直後には血液型にまつわる偏見へんけんと言うが完成していた。

 当時の西欧せいおうでは、A型は白人に多い血液型で優秀、B型は黄色人種に多い血液型で劣等と言う考えの派閥はばつが生じていたのだ。

 そこから血液型占いを一歩し進めた組織がある、皆さんご存知ナチス・ドイツだ。

 これまで確固とした学説こそ存在してない血液型占いだったが、千九百三十年代ドイツではドイツ人に多い血液型を優等種ゆうとうしゅたる血液型として高い知能を有すると肯定的な定義をし、一方でユダヤ人やアジア人に多い血液型を劣等種たる血液型として暴力犯罪や精神薄弱せいしんはくじゃくを引き起こしやすく、そして病気や感染に弱い等否定的な定義ていぎ付けが横行していた。

 ナチス・ドイツはアーリア人こそが優等種であると言う考えの元、演説やプロパガンダや考証を行ない、血液型占いもその一環として利用されたのだ。

 何せアーリア人は世界一の人種なのだから間違いない、総統閣下そうとうかっかが言うのだから正しいに決まっている、枢軸すうじくいしずえに地球は回っているのだから常識なのである。

 演説や発表のたぐいを行なう側も聞く側もそんな調子なのだから、誰も彼も疑い等全く抱かない。

 誰にでもあてはまる事を占いだと言って聞かせるだけで、なるほどそうかと多くの人は信じてしまう。

 それを熱狂の中、民衆をあおる内容の演説で言うのだから、多くの人が信じてしまう。

 私は毎年こうやって血液型占いの有害性をうったえているが、学生達は面白がって私の講義こうぎの終わりに私の血液型を必ず尋ねる。全くままならない物だ。


 * * *


「何ですか? この映像」

 壁面にツタの這った、幻想的な雰囲気のする、昔の映画かアニメで見る様な、おまじないの品々を取り扱う小さな小間物屋があった。

 店の中では、かざり気の無いシンプルな黒のイブニングドレス風の姿をしたすみを垂らした様な黒髪が印象的な店主と、どこかナイフの様な印象を覚えるブレザー姿の青年とが居た。

 青年は丁度店の表の掃除そうじを済ませたところで、店内に入ると店主が何やら学術的な内容だが意味の分からない映像と書籍しょせきながめていた形となる。

 店主の女性が眺めていたのは書籍と記録媒体きろくばいたいの円盤とが二つで一組になっている書籍で、映像では講師らしき人物が熱弁を振るっている映像と資料の映像が、書籍の方も同じ内容の資料がっている形になっている。

「あらカナエ、お掃除ご苦労様。これはね、大昔あった占いとか歴史の映像。今ではある理由の元、失われて久しい物ね。もっとも、この占いを信じていた地域は極めて限定的だったし、今ではその占いも全く役に立たないのだけれども」

 店主の説明はその実的を射た物だったが、青年は全く理解が出来ないでいた。

「俺はその血液型? って言うのは知らないけど、つまり血を使った占いがあったんですね?」

「ええ、そう言う事になるわ。でも血を使うと言っても、カナエが考えている占いとは多分違うわ。例えばゴリラの血液は全て同じ性質を有して居て、これをB型と呼ぶの。逆にヒトの血液型は全てO型と呼ばれる物で……」

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