このフザけた世界で生き残る〜デスゲーム紛いの学園で代替可能少年《オルタナティブ》は無双する〜
星乃カナタ
入学編
第1話 奇人
だから言ったのに……やめておけ、と。
◇
ここは奇才が集う国立 《夢泉学園》。
茨城県のとある人工離島では、夢泉学園系列の高校が十校、設置されている。
それぞれの高校には“職業“が設定されており、もし無事にそれらの高校を卒業することが出来れば、設定された職業に就く事が確約される。
卒業さえしてしまえば『決められた職業』にだけだが、絶対にその職に就ける。
────国立学園が掲げたそんな謳い文句から、入学希望者は毎年後を絶たない。
開校から十年目の現在では受験者数を全国トップで争うレベルの人気校に成っている。僕はその謳い文句を見て、この高校に入学したいと思った。……そして勉強音痴ながらも頑張って入試に向け勉強し、なんとかこの高校への入学チケットを勝ち取ったのだ。僕が入学を果たしたのは、夢泉第三高校である。
設定された職業は 《作家》。
そしてコレは──そう、入学式。
四月十日、月曜日の話だ。
◇
入学式当日。時刻は九時半。僕は指定の群青色の制服を着こなし、大きな体育館で入学式に参加している────ハズ、だったのだが。
入学式当日に何処かも分からない森に迷う男子高校生が、この現代日本にどれだけの数存在するのだろうか? 多分、僕を除くのなら、ゼロだろう。
根拠なくそう確信してしまうほどに、この状況は非日常的だった。
どうしてこんなことになってしまったのか。説明すると、こうだ。
茨城県大洗港から東に百キロ進んだ海上にある人口五十万の人工島 《夢島》。
僕たちは茨城県の港から豪華客船でその島に案内された。なぜ豪華客船なのかというと。
今年からこの島に移り住む、約千人にも及ぶ生徒を乗せるため、豪華客船じゃないと乗り切らないらしいというコトだった。
「良い旅だった。四時間しか乗ってないし、船酔いしたけれど」
この島に着いたら船を下り、それから山を登っていく。
《
三番地区は商業施設が豊富らしい。楽しみだ。
……話が逸れてしまったので、戻すと。そんなわけで入学式会場の第三高校体育館を僕は目指し山を登っていたのだ。だが途中で上を向いて歩くのが疲れてしまい、目の前を歩く少女の足元を見て、彼女についていくことにした。
『まあ、相手は僕と同じ新入生だろうし、行き先は山の上だし一緒だろうから、適当に彼女についていくだけでも問題ないだろう』という考えだった。
「やはり知らない人についていってはいけないというのは、本当なんだな」
数十分後。気が付けば前を先行していた少女と二人っきりになっていて、後ろにいたハズの他の生徒たちは皆どこかに消えてしまっていた。
まるで神隠しにあったみたいにいなくなっていた。最も神隠しにあったのがどちらかというと、僕たち二人の方が適切なのかもしれないが。
ともかく。
そして、今に至るというわけだ。どうだ? 簡単な話だろう? ……うん。うん。
────うん、どうしてこうなった?
「ねえ、そこのユー」
目の前にいた少女が唐突に話しかけてくる。蒼のショートボブをした小さい童顔の女の子だ。美人というよりは可愛い。なんて表現したらいいだろう、敢えて言うのなら『人形』って感じだろうか。
キュートだった。
「え? あ、僕?」
「僕ちゃん以外に誰がいるのかな」
彼女はなんとも落ち着いた、棒読みな言葉を口にしつつ僕を指差す。
「あのさ、僕ちゃんはワチのことをさっきからストーカーしていなかったかい? ずっとついてこられて、端的に言って不愉快だよ。げえー」
「はい? 僕がストーカーだって?」
「うん。僕ちゃん気持ち悪いよね。ワチ、泣きそうだよ。だから逃げる為にわざわざ道から外れて、ここにやってきたんだ。よく知らない森の中に」
いきなり話しかけてくるし、良く分からない所を歩いていたから何事かと疑問視していたが、そういうことらしい。面倒くさいコトになった。
まさか僕がストーカーと勘違いされるなんて。まあ実際にそれは勘違いなのだから、きっぱり“違う“と言い弁明するしかない。
「あー、えーと。それは誤解だよ。僕はストーカーなんてする気なかったし、ただ山を歩き慣れてなくてさ。上を向きながら歩くのが辛いから、君を指標にして、何も考えずに山のてっぺんを目指していただけに過ぎない」
「噓だね。他の生徒たちは皆、ワチが道から外れてもちゃんと進んでいっていたのに、僕ちゃんはついてきていたからね。執念深いよ。げえー」
嘘。戯言。偽り。フェイク。
「噓じゃない」
「言い訳は要らないよ。だってワチは怒っているからね。これ以上ないほどに。例え両親が誰かに殺されたとしても、この怒りは超えないだろうと思うほどに」
どう説明したら良いものかと熟考した事を今、後悔した。彼女は既に物凄く怒っているのだ。僕にストーカーされたと勘違いして。
だから、言い訳を考える時間なんてなかったのだ。
じりじりと近づいてくる彼女。そこには圧があった。もしかしてだけど、僕の人生ってこう易々も終わりを告げてしまうのだろうか。
案外、儚いモノだなと感じた。
いや待て。こんな所で、僕の人生を終わらすわけにはいかない。
「……待ってくれ。話を聞いてくれ」
「言い訳して、いいわけ?」
どう反応するか困ったから、ひとまず冷静に対処する。
「今時、そこまでベタなダジャレは面白くないよ。面白くないどころじゃない、キミ風に言うならば。げえーっだ」
「は?」
失敗してしまった。同時に僕は目撃した。彼女が制服のポケットから、小さなナイフを取り出し右手に握りしめる、……その光景を。
「っそれは」
「僕ちゃんはさ、どこの新入生かな」
急にナイフをポケットから出して握りしめるといい、奇行が目立つ少女の質問に答えるかどうか、一瞬迷った。しかし、迷っている猶予はないだろう。それは先刻の言い訳タイムで分かっている。唐突に持ったナイフの圧の影響もある。
瞬時に言葉を作り出し、ボクは的確に答える必要があった。
「えーっと、第三高校。です」
「へえ、作高なんだ」
「さくこう?」
「そんなのも知らないの? 作高。作家高校の略だよ。第三高校に設定された職業は、作家だからね」
まだ入学初日なのにそんな身内情報を持っているのか。もしかして?
「……分かった。アンタ、僕を試すために現れた試験管だろう? ライトノベルで良く見る主人公を試すために現れる、身分を隠した正体不明の人物だ」
「違うし、これは学校のホームページに大々的に載っていることだよ僕ちゃん」
僕が学校のホームページをあまり見ていないということがバレてしまった。
「ねえ。もしかして馬鹿なの? 無能なの? この学校の謳い文句だけが見て、進路をココに決めた愚かものなの?」
そこまで言われる筋合いはないのだが。取り敢えず、
「ああ、分かった。僕は馬鹿で無能で愚か、かもしれないな。それは良い。それで良いよ。認める。だがその代わりに、ソレをしまってくれ」
「ああ、これ?」
「うん」
僕が馬鹿で無能で愚かだと罵られても構わない────ただ、そのナイフをしまってくれよ。僕としてはそう願うばかりだった。
しかし、彼女は拒否する。
即答する。
「ダメ。今からワチはこれで物語を綴るんだから」
と。
「どういうことだよ?」
棒読みのまま、彼女は続けた。
「自分の血をナイフに塗って、塗って、塗って、それで物語を書くのだから。ナイフは手に収めておかなきゃいけないのだー」
「どういうことだよ……」
意味不明なコトを言われたような気がして、思わず聞き返してしまった。どうやらこの童顔人形少女は、僕が思っている以上に奇人らしい。
もう手遅れかもしれないが、そこで察した。自分の血を墨代わりに、ナイフを筆代わりにして物語を書く。奇行に走る彼女は、正しくオカシナヤツなのだ。と。
「なんてのは冗談だけどね」
びっくりした。それでも、ちょっとまだ怖いぞ。
固唾を飲む。
「アンタ、何者だよ」
コチラの質問に童顔少女は微笑みを一切見せずに、ぎらついた翠眼のまま淡々と口を開いて続けた。
「ワチは僕ちゃんと同じ作高の新入生。セブンティーンアイスがアイスの中で二番目に好き。
こうして、奇天烈というか、奇人高校からの洗礼というか、冬樹原有希と僕は出会うのであった。
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