第7話「襲撃の夜」
注意 今回はR18要素はありません。
異世界生活5日目
夜中に目が覚めたが窓の外から見える光景は明るかった。
「燃えてる?」
外の明るさは家が燃えているからだった。
窓を開けて外の様子を伺うと見慣れない男が村民の女性を追いかけ、転んだ女性の背中を剣で突き刺す。
当たりを見渡すと他にも同じような光景が視界に入る。
「アイガさん!!」
部屋のドアを叩く音と同時に聞こえたアイシャさんの声で驚くがすぐに扉を開ける。
「盗賊が! 早く逃げないと!」
アイシャさんに手を引かれ部屋から連れ出されそうになるがそれを制止し、枕元に置いてある剣を手に取り腰に挿す。
「行きましょう」
「急いで!」
エリザさんやウェンディさんの事が気になり駆け足の中、尋ねるとウェンディさんは守護兵の詰め所にエリザさんはわからないとの事だった。
宿の外に出ると、見える範囲の家は燃えており、そこら中に血を流し倒れている村民がいる。
これって。
「死んでいるんだよな」
平和な村と襲われている村のギャップと見知った顔の死体を見て、急激な吐き気に襲われたと同時に怒りがこみあげてきた。
そんなに親しかったわけでも、話をした事すらないのに村自体を蹂躙されている事がとても腹立たしかった。
「村民は皆殺しだ!!」
斧を持った男がアイシャさんに襲い掛かかろうとしている。
この距離なら間に合う。
だけど足がすくんで動けない、尻もちを付いたアイシャさんが男から逃げるようにあとずさりをしている。
「助けて!」
その声と同時に剣を抜き駆け出していた。
男のディティールを見る余裕なんてない、両手で斧を振り被り、がら空きになった男の胸に剣を突き刺す。
男の胸から剣の刀身に血が流れ鍔のところから地面に落ち、振り被った斧を後ろに落とした男は後ろに倒れその時に剣が胸から抜かれる。
殺した。
一瞬去っていた吐き気がまた襲ってきて、その場に嘔吐する。
「アイガさん!」
アイシャさんが俺の背中をさする。
しっかりしないと盗賊は一人だけじゃない、アイシャさんがいるんだ。
守らないと。
「アイシャさん、ケガは?」
「ないです、アイガさんありがとうございます」
背中をさする手が振るえている、このまま抱きしめたいけどそんなことをしている暇はない。
俺は立ち上がりアイシャさんの手をひいて守護兵の詰め所に向かう。
詰め所の前でイレイザさんが盗賊三人に囲まれている。
守護兵の一人が倒れている。
盗賊共はイレイザさんに集中しているのか俺達には気づいていない。
俺は静かにそれでも素早く盗賊の一人に近づき、背中から心臓の位置にめがけて剣を突き刺す。
漫画やアニメだと華麗に剣を振るうのだろうが素人の俺には、突き刺す以外に重い剣を扱う術が無かった。
前のめりに倒れた盗賊に他二人の盗賊の注意が向き、イレイザさんはそのすきに一人の首を跳ね、
素早くもう一人の胴体を切り裂く、切り裂かれたところから内臓がはみ出しうずくまる。
この短時間で2人も殺したことを意識していまいてが震え剣を落としてしまう。
「アイガ。助かった、大丈夫か?」
平然としているイレイザさんが不思議でならなかったがこの世界では当たり前の事なんだろう、アイシャさんも盗賊には怯えていたが目の前に転がる死体は気にしていないようだ。
「俺、人を」
「人を殺すのは初めてか?」
イレイザは落とした剣を拾い俺の手に握らせる。
「きついかもしれないが、まだ終わっていないんだ。しっかりしろ!」
そうだ、まだ終わってない、さっきもそう思っていたじゃないか、呼吸を落ち着かせて剣を強く握る。
「イレイザ、ウェンディは?」
心配そうにアイシャさんが尋ねる。
イレイザは答えず俺達を詰め所に入るように強く促し、その気迫に押されて詰め所に入る。
「お姉ちゃん」
詰め所の奥に入ると、ウェンディさんと赤ん坊を抱いた女性がいた。
「ウェンディ!」
アイシャさんとウェンディさんはお互いを確認しあうように抱きしめあう。
「アイガ。すまないが手伝ってくれないか」
心臓が跳ねあがる。
手伝ってくれないかということは、盗賊を殺すのを手伝ってくれないかということだ。
凄く嫌だった。
転生最高とかいっていた自分をぶん殴りたいぐらい、殺しはしたくなかった。
でも、目の前で再会を喜んでいるこの姉妹を守りたい、イレイザさんを守りたい、この村を守りたいと思っている自分がいる。
その気持ちが俺の本音だったんだろう。
「わかった」
俺は静かにそう答えた。
「この村に関係がないのにすまない」
「気にするな」
俺とイレイザさんは外の様子を伺い外に出る。
「何人ぐらいいるんだ?」
「10人だ。冒険者を装って村に入り、夜になってから家に火をつけたらしい、男が9人、女が1人だ。女は杖を持っていたから魔導士だろう。何回使えるかわからないが用心してくれ」
「わかった」
俺が殺した2人、イレイザさんが殺した2人、全員生存していれば残り6人でそのうち1人が魔導士か、そういえばエリザさんは無事なのだろうか。
燃える家の横を通りながら前後を警戒しながらイレイザさんについていく、この方角は村長の家だろう。
「他の守護兵はどうしたんだ? あと2人いたはずだよな?」
「1人は村長の家に向かった。もう1人は馬に乗って隣村に助けを呼びにいっている」
「そうか」
イレイザさんが急に足を止め俺に動かないように手で制止する。
視線の先には村人に剣を突き刺している男がいる。
「ユオーン、すまない」
殺されている村人はイレイザさんの知り合いだったのだろう、怒りの表情を浮かべている。
いや、この村人に限らず皆顔見知りなんだろう。
「1人だけしかいないようだな。俺がおとりになるから後ろからあいつを殺してくれ」
「いいのか?」
殺すよりはおとりになるほうが幾分かましだろう。
「任せてくれ」
「わかった」
俺は落ちている石を拾い盗賊に向けて投げる、盗賊にはあたらなかったが盗賊の視線を俺に向けることはできた。
「なんだてめー!」
盗賊は俺を追いかけてきて、イレイザさんに気が向いていない。
あいつの剣を受け止めたらイレイザさんが後ろからあいつを殺してくれるだろう、胸が痛いほど鳴っているのがわかる。すごく緊張しているのだから仕方ないだろう。
剣を受け止めるにしてもどういう風に切りかかってくるのかわからないのだから。
イレイザさんが盗賊の至近距離に近づいたのを見計らい足を止める。
盗賊は剣を振りかぶり、そして振り下ろされた剣を俺は剣で受け止める。
受け止めたときに剣の刃を触ってしまい手の平に痛みが走る。
この一瞬が盗賊の命取りだと思った瞬間イレイザさんが倒れ、盗賊と俺はイレイザさんを見る。
「だからいったろ? 村人を殺し回ったら獲物がかかるってなあ」
イレイザさんの背中に矢が刺さっており、イレイザさんの後方に弓を持った盗賊がいる。
「ちげーねぇ、ナイスナイス、ふひひ」
ナイスじゃねーよ。
どうするこいつらを何とかしてイレイザさんに回復魔法を使わないと間に合わなくなる。
「とりあえずこいつも餌にするか!」
「回復魔法? 魔法……そうか!」
俺は火の魔法を盗賊に向かって放つ、初めて使う魔法だったが相手に向かって飛んでいくのは知っていた。
[魔力5/10、火魔法1熟練度1/10]
「おっと! あたらねーな!」
「お前じゃねーよ!」
盗賊の後ろから悲鳴があがる。
俺が狙ったのは、視界を仲間にさえぎられた弓をもった盗賊だった。
ぶっちゃけどちらにあたっても良かったが、やっかいな飛び道具持ちから殺すことができて良かった。
燃えている仲間の方を注視している盗賊に火の魔法を放つ。
[魔力4/10、火魔法1熟練度2/10]
叫び声をあげながら男は地面を転がり火をけしたが、皮膚がやけ衣類が焼け焦げている。
すかさず男の背中を剣で刺し絶命させる。
弓を持っていた方も焼け死んだようだ。
俺は急いでイレイザさんに駆け寄り、背中の矢を引き抜こうとするが上手くできず、苦痛を与えながら矢を抜く。
傷口に手をあて回復魔法を使う、慣れていないのか仕様なのかわからないが一瞬で治らずゆっくり治っていく。
[魔力3/10、回復魔法1熟練度1/10]
「大丈夫ですか?」
「ああ。すまない注意力にかけていたようだ」
「動けますか?」
「動ける。回復魔法が使えたんだな」
「あと魔法は3回しか使えないです」
「わかった」
盗賊は残り4人か、再度村長の家に向かう。
道中、見たことがない盗賊が二人氷漬けにされていた、これは魔法だとわかりエリザさんだなと思った。
「残り2人か」
そして、村長の家に向かう道中に大人だけでなく、子供達の死体を見ることになりながら村長の家の前に付く。
そこにはエリザさんと見知らぬ女がいる、この女が魔導士なのだろう。
「エリザさん!」
俺が呼びかけた瞬間、エリザさんに向けて女の杖の先から火魔法が放たれるが、エリザさんは微動だにせず指先から小さい氷魔法が現れ、一瞬で大きな氷の壁になる。
これではお互いに視界が遮られてしまうと思った時、女の苦しそうな声が聞こえ氷魔法が消滅する。
「捕まえたぞ!」
イレイザさんが隙をついて女魔導士を捕まえたのだ。
「アイガさん、村長さんの家に盗賊が!」
エリザさんにねぎらいの言葉をかけようと思ったがその話をきき、俺は走って村長の家に入る。
いつも通されているリビングに向かうと、倒れている村長と、その後ろにいる女の子、とどめを刺そうとしている盗賊がいる。
急いで水魔法を使い水圧で盗賊を壁に叩きつける。
[魔力2/10、水魔法1熟練度1/15]
水魔法が消え盗賊が動きだそうとした時にさらに水魔法を顔面に放つ。
盗賊の視界を奪い、じたばたしている男の胸に剣を何回も何回も突き刺す。
盗賊の動きが止まったのを確認して俺は村長に駆け寄る。
「村長!」
村長は腹から出血しており手で抑えても止められない。
[魔力1/10、回復魔法1熟練度2/10]
回復魔法を使うが治る気配がない、俺の熟練度じゃ治せない。
「エリザさん!! 来てください!!」
俺じゃなくてエリザさんならもっと強い回復魔法を使えるかもしれない、そう思い何度もエリザさんを呼ぶ。
「アイガさん」
エリザさんがリビングに来てくれたので、村長の状態を伝えるがエリザさんは首を横に振る。
「どうして!?」
「ごめんなさい、私の回復魔法の熟練度じゃ治せないわ」
「そんなのやってみないとわからないだろ!!」
俺の怒鳴り声にエリザさんがビクつく。
「アイガ……君……もうワシは」
ダメだ、そんなのダメだ。
コミュニケーションテリトリーを発動させろ。
なんでもいい、なんでもいいから選択肢を出してくれ。
「なんでもいいから早く!!」
【諦めるな!】
【死んじゃだめだ!】
【何とかするから!】
[リミットタイムは]
「死んじゃだめだ!」
【諦めるな!-10】
【死んじゃだめだ!-10】
【何とかするから!-10】
[魔力0 話術180]
[無限空間に転移します]
そして俺と村長の長い日々が始まった。
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