Ep.41 宣言
運ばれた武器はライフルが500丁ほどだ。人間がどれだけいるかは分からないが、これだけの武器を格納するのはそれなりの土地が必要だ。到着したのは最終避難場所として作られた地下の只広いだけの空間だ。車が侵入することができるように細工された場所から搬入された。そして、そこは通例では開くためのカギを必要とし簡単には開かれない。つまるところ、軍の関係者ということだ。そして、其の鍵を扱う部署まで絞られた。
「”総統、報告します”」
「”ファイド、ごめん今ちょうど動きがあった"」
総統も何らかの情報を掴んだようだったが、―遅かった。
連邦を分ける全てのブロックに付けられた、警報機から大音量の警報音がほんの数秒流れ、無理やりに止められる。一瞬沈黙した警報機は人間の声を流した。警報機が作動した、つまりは何らかの異常事態が発生したということ。そして警報音が遮断されたということは、その元凶がかなりの規模を持ち、統率のとれた組織だということ。それらすべてが国民に知れ渡ってしまった。反乱とは人間の不安要素を煽り成立するモノ。それが伝播してしまえば、どうなるかなど想像に難くない。
「圧を掛け過ぎたのか」
「我らは有志軍である。この国の政府は現在、他国を救おうと動いている。本来であればこの国以外の人類繁栄圏が存在していることこそ喜ばしいことだ。だが、其れに派遣される軍は英雄、ファイド少佐を始めとし、剣聖ウィスター様までもが参加される。その間、この国を守る兵士は本来の3分の1にまで減る。実現可能か分からない幻想の末に得るのはくそったれた帝国の救済だ。この国の存在そのものを脅かす可能性を大いに孕んだこれは、政府でありながら国家を軽視しているとしか思えない」
一息に語りつくした、と言わんばかりに少し間が開いた。
「我々は対話を望む。その後で犯した罪を償いましょう」
名乗りもせずに対話など、と思いはしたがどうせ主導権はあちらにある。面倒極まりないが、この不安は真っ当なモノだ。対話を望む、ということは別に嘘ではないのだろう。今まで武器を確保したうえで戦力発起しなかったのもうなずける。それに、もともと武器の搬入もまだされていなかったのだから、戦争を望んでいるわけがない。ただでさえ人類の絶滅が危惧されているのだし、仲間内で数を減らしている場合ではない。
「”聞こえていたね?”」
「”ええ。ここは一旦退きましょう”」
「”ああ、対話に臨んでみようか。何というか逆に好都合だね。得意分野だ”」
口先だけでトップに立った女は言うことが違う。ただ、対話は決裂するだろう。これは結局避けられない。なにせ、すべての人間の心を支配することはできないからだ。戦力発起、とまではいかなくとも小さなテロに発展しないとも限らない。俺の仕事はそもそも、戦力発起されてからだ。これが封殺されればいずれ政府に向かって発露される。
「”データは?”」
「”間違いなく受け取ったよ。既に首謀者も割り出した。やっぱり、君の働きは大きいね”」
拠点の場所の特定と、その過程で得られた情報が、犯人特定に大きく役立ったそうだ。攻め入る際に、拠点の場所が分からねば一方的な戦いになる。それが防げるだけで大きな成果だ。
「”帰投・・・帰宅します”」
「”スーツは返してね!?”」
我がものにしたかったところだが、一応は国家機密なので返してからマイホームに帰った。
「「おかえりなさい!」」
妹たちはいつも変わらず出迎えてくれる。もしかして扉の前でずっと待っていたんじゃなかろうか。
「はぁ」とライオスがこちらを見て溜息を吐いていたので、そうではないのだと理解した。どうせ、ライオスに検知魔法を発動させていたのだろう。無駄遣いだなぁ、と思うのだがそれだけ大切にされているということなのだろう。
「少佐、面倒事に巻き込まれたよね?」
「よく気が付いたなライオス。もしかしたら人を殺さないといけないが、それについては詳しく話すとして先に夕飯にしようか」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ!そんな話された後にご飯なんて食べられないよ!」
「じゃあみんなを集めてくれ」
先に説明してもいいが、ここに居る人間に説明した後で同じことを繰り返すのも面倒が過ぎる。それに、ライオスが暗い顔をした状態で晩飯を食っても旨くない。
夕飯の食卓には何も並べられていなかったが、そのまま席に着く。直ぐに夕食をすまして、話を始める。
「昼の放送は聞いたな?」
「有志軍、だったわよね?国としては理解できる対応じゃない?」
「俺はそれの偵察に行ったんだよ。このまま俺がかかわっていたら、お前たちにも鎮圧に駆り出されるだろう」
「人を殺す、ね。私たちも死にかけた仲間にとどめを刺したことくらいはあるけど、少し難しいね」
苦しむくらいならば、止めを刺してほしい。だからこそ、人を殺したという事実が残ったとしても、それは人道的な殺しと言えるのかもしれない。だが、これに関しては違う。意見の食い違いからくる喧嘩の末の殺し、ありふれたただの殺人事件と変わらない。ここに正義も人道もなく、ただの大義という耳障りの良いものしかない。
「初めて人を殺すのは、かなりしんどい。俺も、思い出すことがあるくらいだ」
「少佐がね、確かに。でも、俺たちだって殺した仲間の残像が脳にこびり付いている」
「そういう話じゃない。叶うなら、これ以上人は殺さない方がいい。背負える背負えないじゃなく、自分たちの信条を思い返してみろ」
誇りを傷つける行為だ。人間を殺す、人間を救い後の世代に繋いできた彼らが人を終わらせるのは、そういうことだ。
「それは兄さんも同じでしょ」
「そうです!兄さんも・・・」
アウラは口詰まったが、これは俺のスキルが関係している。ここで500人を殺せば、悪魔に対抗できる力が手に入る。俺の殺しは無駄にならない。500人で、国が救える可能性があるからだ。スキルでは、思考することのできる者の魂しかストックできない。故に、悪魔や人間はストックできても魔物はストックできないのだ。
「少佐、今日の任務に人殺しも含まれてたんじゃない?」
「ケルト、久しぶりに喋ったと思ったら、勘がいいな」
ケルトは人をよく見ている。観察眼が卓越していると言えるが、それは玉に瑕だ。隠し事ができない。ここではぐらかしても意味がないので正直に話す。
「今日の任務は、必要であれば敵勢力の単騎制圧が含まれていた。敵の予測される規模は500程度だったが、不可能ではなかったから請け負ったのだけどね」
「そういうのは相談しなよ」
「そうよ。少佐も私たちの仲間でしょ。というか、今日はどうだったの?」
「今日は殺してない。だが、まだ任務は終わっていないから時間の問題だろう」
「それに関わるな、という話か?」
「違う。関わるかどうかは自分で決めろ、という話だ」
魔物相手で無双できる彼女らにとって人間がいくら武装したところで敵ではない。だが、統率が取れている上に知能が極めて高い人間が500人相手であれば苦戦することは必定。人間は個体性能は低いが集団になれば決して弱い種族ではない。
「少佐一人に背負わせないよ。少なくとも僕はね」
「そんな言い方しなくても全員考えてることは一緒だろ?」
ライオスの同意に対して、モンドが返した。それは総意だったようで、皆が同じ眼を向けてくれた。だがこれに関しては、かなり複雑な思いだ。彼らが誇りを忘れることは断じてない。この先何年経とうと、それは覆らない確信がある。だが、知らずに誇りを汚してしまうことになるかもしれない。
机に置いていた手に、小さく温かい手がかぶさる。腕をたどってみれば、それはフィンだった。目を見て確信する。相手の誇りなど、他者が考えていいものではない。本人が、誇りに変えても良いと判断したのならばそれを否定することは侮辱に等しい。心配するのも憐れむのも、同じだ。
「あると確定しているわけではないが、十中八九起こることだ。覚悟と準備はしておいてくれ」
「当然ね。みんなもそれくらいの覚悟は簡単でしょ?」
レイズが笑いながら返した。レイズの悲願はこの反乱を超えた先にしかない。そのための人殺しならば進んで実行するような人間だということを知っている。彼女は自分が案外他者に対して無関心であることを知っている。俺と同じような生き方ができてしまう人間だから、殺しを手段として考えてほしくない。自分は選択肢がなかった。だが、レイズにはまだある。
「レイズは留守番じゃないかしら?みんなはどう思う?」
「留守番」「留守番だな」「留守番でしょ」
シルがレイズの意気込みに対して、彼女の肩に手を置いて制止した。そして、それは彼らの総意であった。
「え?なんで?」
「え?じゃないでしょ。レイズって人を殺してもなんとも思わないでしょ」
「人の皮をかぶった死神、そう思うこともあったしね」
「レイズはまだ駄目だろ。少佐だって、つい最近まではそうだったからな」
「レイズは自分の背負っている物と向き合わないといけない」
全員から批判され、レイズは唖然としていた。それを見ていた三人もまた。だが、ここに居た7人はレイズに対して同じことを思っていた。人の価値と自分の価値、もう一方には大義や悲願を乗せた天秤がレイズは狂っている。俺も、人の価値を正しく見れていなかったころの人殺しは、あまりに軽くこなせてしまった。だから、今は人を殺す事に対して少しのためらいがある。そして、人を殺していいのは最低限、其のためらいがある人でなければならない。
「決まりだな。すべては総統の働き方次第だが」
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