引退に伴う感情

 週末の深夜になると甲州街道を飛ばし新宿に向かう。

 飛ばすと言っても所詮下道。限度も節度もある。


 深夜にも関わらず新宿に近付くにつれ、信号待ちの歩行者や車道を走る電動キックボードなど予測のつかない動きが増えてくる。

 節度が必要だ。


 厄介なのは絶対に車線を譲らないタクシー。他にも、こんな時間にセダンが路肩に停車している意味を考える。時にはあからさまなペースカーが入ることもある。

 限度は守らないといけない。


 すぐ赤信号に絡め取られる都会の深夜、出せてもせいぜい100キロ程度の速度域で開けれるだけ目一杯アクセルを開放する。テクニックも何もない。自分のいる車線が自分のいない車線よりも流れるかどうか、少しの経験則と勘だけを頼りに飛ばす。


 そんな無意味だが意義のある遊びも終わりを迎えた。


 卒業なのか引退なのか。

 言い方はどうでもいい。

 メーターの数値では測れないスピードの中、同じ道を競うように走った名も知らない仲間達。

 もう彼らには会えないのだ。

 それだけが事実。

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