金平糖

笹岡悠起

気触れる

 三十年以上、オートバイに乗っている。

 最近、通勤にも役立つかと思い立ち、久しぶりのホンダ車となるカブを買った。


 思えば人生で初めてのカブ。

 まだ幼き頃、荷台に座り叔父の背中にしがみつき、流れゆく田園風景をその目に焼き付けた。その原初のバイク経験もカブではなかっただろうか。

 そんなカブをいざ自分で運転して感じた事。賛否両論反感を買いそうな意見を述べてしまうが「これはバイクではないな」というのが正直な感想。

 ガッチョン、ガチョンとペダルを踏み込んで走っていく。風を切り裂くのではなく、風と友になる。

 これはバイクではない。スクーターでもなければ車でもない。

 これはカブという全く別の乗り物だ。


 同じ排気量のスクーターに抜いて行かれてたっていい。所詮カブなんだから。

 アクセルを開けたくなったら思いっきり開ければいい。世界のカブは負けないんだから。ちょいと言い回しがプリキュアっぽいな。

 面倒な時はフルフェイスじゃなくったっていい。ちょっとそこのコンビニまで、半キャップで行けばいい。

 日本人の耳に馴染んだ、深夜に溶け込み静かに働く排気音。夜遅くに帰ってきてもそんなに気にしなくたっていい。まぁでも出来るだけブン回さずに。


 Uターンも切り返しも跨ったまま歩けちゃう。

 渋滞で地面に足着いたら負け選手権もやんなくていい。頑張ってバランス取んなくてもいい。低速でふらついたら迷わず両足をベタ付きすればいい。

 信号で隣に並んだバイクと始まるシグナルGPもやんなくていい。気が向いたらたまにやってもいいし。


 全てが気楽。それがカブ。

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