第7話 成長しない
「じゃあ、フレアを副所長ってことにして代わりに行ってもらおう」
「所長! フレアのやつまだ十歳ですよ!?」
「所長が壊れたー!」
あまりに唐突だった。だが、理由は明らかだ。
ロスの戴冠式を、所長が再三再四再五再六無視したのだ。そのせいで、とうとう罰金を取られ、次に無視したらわかってるよな、という脅しも届いた。それでも造船所は忙しい。絶対に手は離せない。
私の肩を掴む所長の目が逝っちゃっている。
「奴らには任せられないんだ、フレア、行ってくれるよなそうだよな」
「あー・・・・・・行きます・・・・・・」
「良いのかよ!」
誰かがそう言った瞬間、着いていた。そこは商店街と城の間の小道で、沢山の人がごった返している。彼らの顔はどこかで見たことがあるような、ないような、変にぼやけている。
「前通ります、ごめんなさい、すみません」
妙に足元がふわふわした感じで歩きづらい。人並みをかき分けて進むが、辿り着けないような気がしてくる。
急に、ぱっと視界が開ける。ロスは銀の王冠を頭に乗せてそこに立っていた。白い服に光が反射してキラキラ光る。
彼がこちらを向いた。
目があった。
と、思ったら天井だった。布団の感触がある。
「・・・・・・」
だいぶ懐かしい夢だった。跳ね起きて、周りを見渡してみる。ロスからの手紙があった。そして炙り出した文。間違いなく今日だ。
作業着のまま寝てしまったので、なかなかシワがひどい。気休め程度に膝のあたりをバサバサ払って、個室を出た。
すると数人が廊下の向こうから歩いてくる。
「おはようフレアちゃん!」
「あ、おはようさん」
「おはようございます! ・・・・・・もう話し合いするんですか?」
チラリと会議室を見ると、すでに十人くらいの人がいた。チョークでエクリプスの地図が描いてある。
服屋さんがヘラヘラと笑う。
「愚痴ばっか言ってても進まないからね、もう少し建設的な話題にするよ」
「うん、それがいいと思いますよ! 悪口ほど無駄なものはないですからね!」
「君、他の職員たちの悪口」
さあ仕事だ仕事。
ドアを開けて作業場に出ると、所長たちも起きていた。夢の中の(現実でも実際にあった)キマっちゃってた人とは思えない。
「おはようございまーす」
「おそよう。飯食ったらとっとと来いよ」
「後でいいよ」
そうか、と言って、所長は手招きをした。彼に着いて、準備室の前まで行く。
目をやると、皆はでかい木材を集まって切っていた。全員で覗き込む必要があるんだろうか。
「お前はこっち」
「はーい」
首根っこ掴まれた。よそ見をするとすぐバレる。
所長が準備室から薄いマットを取り出しつつ言った。なんだか急いでいるようだ。
「明日には来れるらしいから、寝る場所をとっとと確保しないといけないんだ」
「・・・・・・誰の、ですか?」
既視感、嫌な予感しかしない。こんなこと前にもあった。
「ええ、当ててやりますよ! 人手と材料をポリーテイアーで手配するって言ってたし、アイツらだけじゃ不安だし、リーベさんとか隣国で働いてる人とかでしょう!」
「お、当たり」
「当たったって何の意味もないよー!」
どうしてこの人はこんなに急なんだ。頭を抱える。
いや、悪口は良くない。私だって学習したんだ。失礼なことを言うのは良くない。やっぱりアホ!
「それに、そこまで急ぐ必要ないでしょ! さすがに皆だって」
そう言って振り返ると、彼らは猫にメロメロになっていた。
「ごめんなさい所長、私がアホでした。大人しく片付けしましょう」
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