稽古

「ほれ、はよ立ってみ?」




初めて人に投げられてから30分間、俺はひたすら地面に叩きつけられていた




周囲を回って撹乱してもダメ、連続で攻撃してもダメ、使ったことのない技を見よう見まねでやってみてももちろんダメ




その全てをあえて受けた上できっちりと返してくる




唯一の救いは向こうからの攻撃がないくらい、、、




「って、なに考えてんだ俺、ふざけんなよ!」




「おっ?どうした?気でも狂ったか?」




いちいち、こっちの言われたくないことを的確についてきやがる




「気ならとっくに狂ってるっての!」




あえて、ここは真正面からの飛び蹴りで、、、




「ふぅ、あくびがでるのぅ」




受け止められるのはわかってる!




受け止めて足を掴んだ瞬間しかねぇ




掴まれた蹴り足を軸に体を回して、もう片方の足で蹴る!



「延髄蹴りか、悪くはないな」




それも止められるのかよ!!




「離せよ!」




「ええもん見せてもらったし、こちらも遊んでやろうかの」



そういうと俺の両足を掴んだまま回り始めた



「やーーーめーーーろーーーーっ!!!」




「飛んでいけぇぇ!」




回転が一番速くなった瞬間に投げ捨てられた俺の体は真っ直ぐに近くの木にぶつかっていった








***


ベルはこの30分間考えていた



最初は遊び程度に考えていたこの稽古が今まで朧げではあった馬鹿馬鹿しい推測の答えになるのではないかと



そして、徐々にその推測も事実に近づいていることも気づいていた




そして、先ほど思いっきり投げ捨てた少年を見て確信に変わる




まず、ここまでの流れのうち普通の同年代の人間であればどうなるか




昼夜問わずろくに栄養も取らずに、叫びながら走り続け、それすらも出来なくなったら次は近くの木を殴り続ける



いくら死にたいからと言って、精神論だけでそれを成し遂げるの不可能に近い




不可能と言い切れないのは、目の前の少年のせいである




それにここまでの稽古もそうだ



ほんの30分前の自分なら、先ほどやった技もやりすぎたと思い、救護に向かっていたかも知れない



ただ、この少年の体の丈夫さにある種の信頼を置いている今の自分はとゆうと、まだ臨戦体勢を取っていた




そして、それに応えるように少年も気を失わずに少し動き始めていた





自分自身、数多の戦場に赴き、幾度も死線を潜り抜けた自負はあった




そして自分が隊長になってからも自ら現場に赴き

経験を積んだ自信もあった




ただ、目の前の少年はそのどれにも当てはまらない、いわば未知の存在




ここまでにあの少年にかけた技、そのどれも戦場で何度かやったことがある、生きた殺しの技であった



なのに、それら全てを受けても悪態をつきながら立ち上がってくる



はっきり言ってこれは





「異常じゃのう、これじゃあ坊主はまるで死なない呪いをかけられてるみてぇだ」






少年にとってあまりにも残酷すぎる現実がそこにはあった


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