回復魔法を極めたらぶっ壊れ性能になった。妾の子と迫害されるので実家に頼らず生きていく!

年中麦茶太郎

第1話 剣聖の死と転生

 その男は剣聖と呼ばれるほどの英雄だった。


 なんの変哲もない村の、ごく普通の両親から生まれた。

 幼い子供なら誰もが抱くような冒険心を胸に秘めて育ち、すっかり手足が伸びてからもその冒険心を少しも曇らせなかった。


「村を離れるなんて馬鹿な夢を見るのはやめろ。魔物か盗賊に殺されるのがオチだ」


 両親のそんな言葉に聞く耳を持たず、家出同然に旅立った。

 最初の武器はクワだった。

 戦い方は我流。

 それでもなんとか生き延び、ようやく中古の剣を買った。


 すぐに死ぬという両親の予言は外れ、その男は冒険者として名を上げ、やがて貴族に雇われて騎士となった。


 男は貴族と共に、盗賊団を壊滅させ、魔物の群れを蹴散らし、古代文明の遺跡から数々の遺物を持ち帰った。

 そうしているうちに、仕えていた貴族の宮廷内での発言力が増した。貴族はついに王女と結婚するに至った。

 かくして男は、貴族の騎士から王家の騎士となり、ますます名声を上げていく。


 国を守るために戦線に立ち続けた。

 敵の兵士を殺し、邪教徒を殺し、魔族を殺した。

 戦い続けた男は、いつしか剣聖と呼ばれるようになり、国境を越えて英雄と讃えられた。


 それでも男の戦いは終わらない。

 強い敵を倒すと、もっと強い敵が出てくる。


 剣聖は戦いから逃げられない。

 休息は戦いと戦いの狭間の短い時間。

 心安まる瞬間は微塵もない。

 こんなことをしたくて故郷を飛び出したのか、と自問する毎日。

 違う。

 自由に冒険をしたかったのだ。剣だけでなく魔法の修行もしたかった。酒を飲みたい。女を抱きたい。

 しかし剣聖にそんな暇はなかった。


 戦って、戦って、名声が絶頂に達したとき、剣聖は寿命を迎えた。

 庶民から王族まで、多くの者が剣聖の死を悼んだ。

 普通なら、満足のいく死に様なのだろう。

 だが、違う。

 やりたいことは、なにもできなかった。

 もっと自由に。なんのしがらみもなく。英雄とか剣聖とか、そんな称号を全て捨てて、あの窓から見える世界を気ままに旅したかった――。


 寝たきりだった剣聖は、手の届かないなにかに腕を伸ばす。


 ――いいでしょう。世界を守り続けたあなたには、人生をやり直す権利があります。女神の名において、その願い、叶えましょう。

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