桜吹雪の記憶

桜堤公園に向かおうと歩き出したが、

やはり彼女といつも歩いた道のりとは少し違う道を選んでしまう。


公園までは4キロほどの道のり。

快晴で日向を歩き続けると少し汗ばみ、時折吹く風が心地よい。

ソラには夏用の白いお散歩着を着せておいて正解だった。


公園では桜祭りを開催しており、屋台も多く人で賑わっていた。

犬連れなので人混みは避け、桜堤から一段降りた道のりを歩いていく。


風が吹く度、桜がヒラヒラと目の前を踊る。

ソラの頭の上にも花びらが2枚ちょこんと乗っている。

そんなことも気にせず、久々のお散歩道でウキウキのソラはどんどん歩いていく。


満開の桜、風で少しずつ散りゆく桜は僕を寂しい気持ちにさせた。

この1年仕事に没頭し、ソラとの生活で少しずつ気持ちは和らいでいたと思っていたが、

心の奥底ではまだ「寂しい」が占めていたようだ。

男の方が失恋を引きずるとは聞いたことがあったが、僕そのものだった。


しかし後悔しても彼女は戻ってこない。

2人で決めた別れなのだから。

別れたあの日の記憶が戻ってくる。


最後に彼女とソラのお散歩で向かったこの公園。

彼女自身も最後までこの決断が正しいのか悩んでいたのは、終始浮かない顔からも分かっていた。

だが、僕には「行かないで」とは言えなかった。

彼女がやっと掴んだ海外勤務という夢への切符だったから。

彼女の仕事柄、家族であっても帯同は難しく、

いつか、この日が来ることは2人とも予測はしていた。

それでも、やはり別れは寂しく悲しい。


「いつかこの気持ちが和らぐ日は来るのかな」

僕の独り言に立ち止まって振り向き、首を傾げるソラ。

リードを持つ僕の手をペロッと舐めてくれる。

きっと慰めてくれているのだろう。


「ソラ、ありがとう。さあ、そろそろ帰ろうか。」

頭を撫でてリードを持ち直す。

来年の今頃はもう少し前を向いている僕を期待しつつ、

今日だけは、この桜を眺めている時間だけは、

少し感傷的な思いに浸ろう。

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