シーグラスと虚像
風遊(ふゆ)
私たちが星なのだから
宇宙ってなに色をしているんだろうね。
食後のデザートをなんとなくという理由で決めたときと、おんなじ感じの音でキミは言った。キミはそのとき、空を見上げていて、そこには星のたくさんがちかちかと瞬いていて、ひとつひとつは白色をしていたり、青色をしていたり、赤色をしていたり、もっとぐちゃぐちゃで、呼吸をひとつするたびに、まばたきをひとつするたびに、ひと色にさだまらずにふわふわとゆらぐ、夜中の電話で交わす曖昧な約束みたいなものもあった。
私はキミとおんなじように、おんなじ空を見上げていたけれど、宇宙の色なんてものを考えたことは、たぶんこれまで一度もなかった。ただ理由もなく、言われてから考えてみたら、それはどこまでも深く、どこまでも暗く、どこまでも広く、どこまでも冷たく、どこまでも熱く、どこまでも退屈な黒色をしているのだと、そう思っていたことを知った。なんでかなんてわからなくて、いっそなんで私は、キミとおんなじ疑問を持つことがなかったのだろうなんて、そのことを不思議に思いさえした。
よく晴れた日に屋上でお弁当を食べているときの、ばかみたいな青一色だって、夕暮れどきに坂道で自転車を押しているときの、うそみたいな紅色だって、もちろんこの瞬間のそれだって、どれもこれも、黒なんて、わかりやすくてやさしい色ではなかったはずなのに。
わたしは、宇宙は透明なんだと思うんだよ。
キミは、ひとつひとつの言葉を、星の放つ光で幾重にも波立った水面に、さらにそっと投げかけて、わきたった波たちが交わり合うときの、複雑な模様を観察するみたいに言った。
夕日がしずんだあと、朝日がのぼるまえ。
太陽も月も星もいない空の、名前のつけられない色。
宇宙って、あんな色だと思う。
キミはめいっぱいの夜と、めいっぱいの星とを、瞳にたたえて言った。
そうかもしれない、と私は言った。キミは私の共感に、さらに共感を重ねるでもなく、安堵するでもなく、拒絶するでもなく、めいっぱいにたたえた夜にまぶたをそっとおろして、それは星たちの光をのみこんでしまうみたいだった。
そしてまた、ゆっくりとまぶたをあげたとき、キミの瞳の色は、ぐちゃぐちゃで、曖昧で、やさしくもなければ、ただしくもない色をしていて、きっと本当に、宇宙がキミの言ったとおりに透明だったとしても、その瞳では、それを知ることはできないのだろうと思った。
私とおんなじように。
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