菅沼定忠
高天神城の陥落は武田方をさらに勢い付かせた
武田家中では長篠城の奥平貞昌を潰すべきだとの機運が高まる中、ある外様豪族が武田家重臣の穴山信君を訪ねる
「おお、定忠殿ではないか。いかがなされた」
それは奥三河、
背が低く肥満気味の彼は信君を見上げるようにして笑顔を浮かべる
「先日の大勝、謹んでお慶び申し上げます」
「ありがとう。あ、まぁ座ってください」
信君は常に外様豪族に対して威圧的な態度を取ることなく、関係を築いてきた
この菅沼定忠もその一人だ
「長篠城攻めへの機運が高まっていることかと存じますが恐れながら、あの城は三方を川に囲まれた堅城です。あれを落とすのは容易ではない」
彼が甲斐の躑躅ヶ崎館をはるばる訪ねたのは長篠攻城を楽観視する者がいることに危機感を覚えたからである
「ふむ。確かにあの城は寄ったこともあるが守りの堅い城だ。では、どうすれば落ちると思うのか」
「はい、私が思うに長篠城は守りは堅かれど狭き城です。よって、城内に我らが意の者を紛れ込ませ攻城と同時に反旗を翻させれば、逃げ場のない城兵たちが混乱を極めるのは必定かと」
定忠は内通者を用いることを提案したが、信君は難点があることを示す
「いいたいことは分かるが、あのような城の兵士は皆地元に住んでいて見知った仲間ばかりだ。そこへ余所者が紛れ込んでもすぐにバレてしまうだろう」
だが、定忠は不敵な笑みを浮かべてこのように提案する
「心配は無用です。あの城の中に
「なるほど、彼を使うのだな。確かに既に城に居る奥平の家来なら使いやすい」
信君はその提案について前向きに検討するとしつつ、こうも尋ねる
「しかし、その強右衛門とやらは信頼できるのか?徳川方の罠やもしれぬ」
これに定忠は顔に影を浮かべて答える
「私も実際に会いましたが相当貞昌を恨んでいること間違いなしです。もしご不安なら会わせましょうか」
「うむ。わしは甲斐から離れられぬ故、二俣城の
依田信守はあの依田信蕃の父親であり息子を甲斐国に出仕させて自身は遠江二俣城を任されており、信君も信頼を寄せる仲間の一人だ
「分かりました。彼にも面会に応じるよう伝えておきます」
こうして、後日強右衛門は信守に会うため長篠城を出立するが、長篠城の城兵たちが彼が出立する様子を目撃して訝しみ、密かに後ろを追尾したものである
すると案の定武田方と面会していたため、彼らは貞昌に報告
さて、貞昌はどのように対応するのであろうか―
※人物紹介
・菅沼定忠:奥三河の豪族の一人
・依田信守:芦田信守とも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます