⑤終わり方

ショッカーという組織自体、悪の秘密結社としては描かれていません。ケイが本郷とルリ子に対して敵意を抱く描写もありません。本郷とルリ子へ敵意を持つのはオーグたちです。そして緑川博士もショッカーを壊滅させよとは言っておらず、堕落したオーグたちを討伐するためにバッタオーグを開発したと明言しています。ケイからするとこれは組織と裏切り者の戦いではなく、組織の内部抗争に過ぎないのかもしれません。ルリ子がケイに対して1度も攻撃していないこともその根拠です。


なぜケイを攻撃しないのでしょうか。ルリ子の説明を聞くに、ケイは戦闘用ロボットではないので恐らく戦闘力はありません。また人工知能アイが外の世界を知るために不可欠な存在であることを考えれば、ケイの破壊は即ちアイの無効化、即ちショッカーの壊滅です。ルリ子がケイを攻撃しないのは、ショッカーの壊滅を望んでいないからと考えるのが自然です。正義の味方補正がないどころか、正義の味方なのかも怪しい。


なぜショッカーの壊滅を望まないのでしょうか。最も不幸な者を救済する幸福モデルは、既に幸せな者が不幸を被っても構わないと考えるので、最大多数の最大幸福が理想とされる世界においてショッカーが社会の脅威あることは間違いないです。しかし、そんなショッカーに救われた人、最も不幸な者がいるのも事実です。イチローやルリ子もその1人ですよね。ルリ子の遺したメッセージは「兄を止めて」で、彼女もショッカーを滅ぼせとは遂に言いませんでした。


ルリ子の遺志を果たした本郷の行動原理を形成するのは、緑川博士の遺志です。それはつまり、ショッカーの理想を実現するために与えられた力をエゴに利用する悪に堕ちたオーグを倒すことです。ルリ子の遺志がどうであれ、本郷はショッカーを滅ぼせません。そして本郷の遺志を継ぐ一文字もショッカーを滅せません。ただ政府機関から提供される情報に基づいてオーグを処理し、次のオーグ、また次のオーグを倒し続けることになります。


もし、政府機関がケイというショッカーの脆弱性に気付いたとしても、ショッカーが滅んでしまえば、仮面ライダーは力の使いどころを失った潜在的な脅威となります。軍事力で成立した国家が、支配が安定してからの兵の扱いに困るのと同じです。政府にとっても仮面ライダーがオーグをちまちま倒し続ける状況は都合が良いので、もしたら作中に描かれた範囲でケイのことには気付いているものの、戦略的無知の姿勢を取っていた可能性があります。


つまり、この映画の終わり方は「俺たちの闘いはこれからだ」ではなく、「ここから先は話が進まないから終わり」であると解釈できます。終わりがないのが終わりの典型なのかもしれません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る