平凡な俺の性善説。

@waita

平凡な俺の性善説

平凡な俺の学校生活

 目覚ましの音が鳴る。

 その音に反応して、俺こと烏野太陽(うのそる)は目を覚ました。

 4月の少し肌寒い空気を感じながら布団から手を出すと、スマホに手を伸ばして目覚ましを止める。

 溜まっている通知を見ない様にして、時間だけを見ると今は7時半だった。

 学校のショートホームルームは8時半から。

 まだ余裕がある。

 ミュートにしたままのスマホが震えるけど気にしない。

 俺は起き上がると、制服に着替えて鞄を持つ。

 そして部屋から出て、階段を降りたのだった。


「おはよう、ソル」

「おはよう」


 下へ降りると母さんが朝食を机へと置いていた。

 彼女が俺にソルとかいうキラキラネームをつけた張本人である。

 せめてタイヨウ君にしてほしかった思う。

 朝食を置き終わると、お弁当も机の上に置かれる。

 

「顔洗ってらっしゃい」

「ああ」


 忘れないうちにお弁当を鞄へと入れた。

 俺はトイレを済ませると、手を洗いながら洗面台に向かって鏡を見た。

 なんというか……普通の顔だ。

 いつも通りの普通の顔だ。

 まあ平凡な事は悪い事ではないだろう。

 身長だって170cmあるのだから、人権はあるのだ。いや、本当に170cmあるんだ。

 スマホが震える。気にしない。

 まあ、そんな事を考えても仕方がない。

 顔は変わらないし、身長は……まだ伸びるかもしれない。まだ俺は16歳だし。

 手を洗い、顔を洗うと、俺はリビングへと戻ったのだった。


「遅刻しないように早く食べちゃいなさい」


 母さんは忙しそうに動き回りながら言う。

 朝食は食パンと目玉焼きだった。

 スマホが震える。

 

「ああ」


 目玉焼きに何をかけるかといわれれば、決めていないと答える。

 その日の気分によってかけるものは変わる。

 今日は何もかけない気分なので、そのまま食べた。

 スマホが震えた。

 食べ終わると歯を磨いて、玄関に立つ。


「じゃあ、行って来る」

「忘れ物ないわねー?」

「ない、子供じゃないんだから、一々聞かなくていいよ」


 高校2年生にもなったのだから、家を出る時に忘れ物の確認をしないで欲しい。

 そして俺は家を出たのだ。

 二階建ての一軒家である家を後にし、俺は学校へと向かう。

 季節は春であり、道では桜が咲いていた。

 

(少し早いか?)


 俺の通っている高校は近い。

 歩いて10分程だ。

 今の時間は8時。

 少しだけだけど余裕があるだろう。

 だから俺は通学途中にコンビニに寄ることにした。

 何故なら、何度もスマホが震えているから。


「いらっしゃいませー」


 店員さんが挨拶をする。

 店内を見回すと、同じ制服を着た高校生が何人かいた。当然俺も同じ制服で、同じ高校に通っている。


(あ……)


 その中で、俺は彼女を見つけてしまう。

 兎沢月(とざわるな)だ。

 同じ学年だけど、とても人気者な彼女は、所謂スクールカーストのトップに君臨する存在だ。

 つまり、平凡で陰キャな俺からすると関わり合いのない人間である。

 きっと俺の名前も知らないだろう。

 そんな俺が何故彼女を見つけてしまったかと言えば、目立つとからという理由に尽きる。

 美人でスタイルのいい彼女は、目を瞑ってでもいない限り目に入ってきてしまうだろう。仕方のない事だ。

 

(っと……)


 それはともかくとして、俺はコンビニの商品を見ながら少しだけスマホを見た。

 沢山来ている通知を、さらっと目を通す。

 なんだかその時、少しいい匂いがした。

 

「ふぅ……」


 それを終わらせると、俺はコンビニを少し回る。

 その時、兎沢月がコンビニから出ていくのが見えた。

 目に映ってしまうのだ、それだけ眩しい存在なのだ。

 結局、俺はグミを買ってコンビニから出た。


「ありがとうございましたー」


 店員に送り出されながら、俺は再び学校へと向かった。

 時間は8時10分。

 まだまだ余裕だ。

 やはり桜が咲いた道を通って、俺は学校へ歩いて行く。

 桜は綺麗だけど、たまに毛虫が落ちてくるらしい。

 俺はまだ被害に遭ったことはないけど、それはとても嫌だなと思う。

 そんな事を考えながら歩いていると学校へと着いた。

 

「おはよー」

「うーす」


 多くの生徒が校舎へと入って行き、挨拶をしていた。

 ここは神奈川県立いずみ野高校。

 俺が通っている学校の名前だ。

 平凡な俺が通っているのだから、レベルも平凡な普通の高校である。

 もちろん俺がここを選んだ理由は家から近いからだ。

 我ながら平凡な理由だと思う。でも高校くらいならそう言う人も多いだろ?合理的だしな。

 俺は靴を履き替えて、2階の自分の教室へと向かった。

 俺のクラスは2-1だ。


「今日1限なんだっけ?」

「数学。最悪ー」


 教室へと入ると、真ん中の机付近へと陽キャが集まって楽しそうに話していた。

 今日は4月9日である。

 一昨日が4月5日で始業式だったわけだ。

 それから土日を挟んで、授業が始まった。

 つまり、クラスが変わってまだ2日しか経っていないのだけど、もう仲の良いグループを作ってしまったわけだ。流石は陽キャ。スクールカースト上位である。

 その中心にいる人物を俺は知っている。

 火山英人(ひやまえいと)。サッカー部の爽やかなイケメンである。金髪に染めた短髪が特徴だ。

 1年の時はクラスの中心人物。陽キャ達のリーダーみたいな存在だった。それでサッカー部なのだからコテコテである。 

 実は俺は1年の時同じクラスだったのだけど名前も覚えられてるか怪しい。

 そんな陽キャ達と陰キャの俺は関係なく。俺は黙って後ろの方の自分の席へと向かったのだった。

 時間は8時20分。ショートホームルームが始まるまで、まだ時間はあるわけだ。

 

「よう、ソル」


 俺が自分の席へと座ると、前の席の男が話しかけて来た。

 その男の第一印象は誰もが同じ感想を抱くだろう。凄く太っている。そんな男だ。


「おはよう、アクル」


 彼は俺の唯一の友人であり、小学校の時からの腐れ縁である。名は南十字明来瑠(みなみじゅうじあくる)という。

 俺が言えた義理ではないけど、途轍もないキラキラネームである。

 と言っても、キラキラネームは多い。このクラスだけでも相当な数がいる。おかげ様で俺のソルとかいうキラキラネームも隠れていて助かるのだけど。


 俺はアクルを見た。

 彼はなんというか、とてもデカい。大事な事なので二回言った。

 いや、そうとしか言いようがないのだ。流石に100キロはないと思うけど、とてもデブだ。三回目である。

 しかし、本人は気にした様子がないと言うか、ネタにするくらいである。


「うーん、この椅子一年の教室の寄り小さくないか?」


 と思っていたら、早速フリが来た。


「お前がデカくなっただけだろ」


 俺はすかさずツッコんでやる。


「なにを、1kgしか増えてないぞ」

「いや、デカくなってるじゃねーか」

「「ははは」」


 そんな話をしているうちに、ショートホームルームが始まるのだ。


「えー、新しいクラスにまだ馴染めてないかもしれないが、今日からちゃんと授業は始まるからな。真面目にやるように」


 昨日は午前授業だった。

 うちの担任は男の担任の先生で、野口浩一(のぐちこういち)という40歳くらいの普通の人で、世界史の担当だ。

 ショートホームルームが始まると、授業が始まる。

 1時間目は数学だ。俺は嫌いではない。少なくとも歴史なんかよりは。

 


     ♦



 だらだらと授業を受けて、4時間目が終わる。

 4時間目が終われば昼休みが始まるのだ。


「やっと終わったよー」

「飯食おうぜ!」

「飯食ったら何する?」


 昼休みが始まれば解放感から、教室中が騒がしくなった。


「行こうぜ、ソル」

「そうだな」


 そんな中で、俺は弁当を持ってアクルと一緒に二人で教室を抜け出したのだ。

 声をかけられることも、声をかける相手もいないので、あっさりと教室から抜け出す事が出来る。いや、悲しくなんてないからね。


 そして向かった先は屋上である。

 屋上は施錠されているはずなのだけれど、施錠されていない。

 何を言っているのかわからないのかもしれないが、間違ったことは言っていない。

 施錠されていたのだが、ある生徒があまりにも出入りするため諦めて開けっ放しになっているという状態である。ちなみに、そのある生徒と言うのは俺達の事ではない。

 それでも、俺達は施錠されていない屋上の扉を開けて外へと出たのだ。


 そこには誰もいなかった。

 それは、いつもの事である。

 俺達は歩いて行き、屋上の一角を陣取って俺は弁当を広げる。

 

「先に悪いな」

「いや、いいよ」


 対してアクルは、と言うと手ぶらであった。

 俺はアクルを無視して弁当を食べ始める。

 アクルが手ぶらなのにも、俺が先に食べるのにも理由がある。

 別にアクルがダイエット中というわけではない。

 アクルの弁当は、すぐに届くのだ。


 その時、屋上の扉が開き、ある女生徒が屋上へと入ってくる。

 その女生徒は……なんというか、とてもエロい。

 いや、本当にそうなのだ。

 まず見た目がギャルである。金髪に目に星が付いていて肌は少し黒っぽい。

 それはいい。しかし、スカートがとても短く、少し離れて座っている俺からはパンツが丸見えなのである。それに大きな胸の胸元も大きく開いていて、大きな谷間どころかブラの一部まで見えている。

 つまり、エロいとしか言いようがない女生徒なのである。

 彼女の名前を、俺は知って……いや、知らないな。

 何故なら、彼女はこの高校の名物ビッチ先輩だからである。

 名前なんて覚える必要がないだろう。何故なら、ビッチ先輩なのだから。

 そんな彼女がここに来た理由と言うのは単純である。


「アッくーーーん!」


 ビッチ先輩はアクルへと駆け寄ると、その腕へと勢いよく抱き着いた。

 凄くテンションが高い。

 

「おう」


 何故かアクルは普通のテンションである。

 お前、なんでそんなに平然としていられるんだ?

 お前の腕にビッチ先輩の巨乳が押し付けられて形が変わってるんだぞ?

 俺は極力見ないようにしながら、弁当をいそいそと食べていく。

 いや、見ても問題はないのだ。何故なら、彼女の目には俺なんて映ってないのだから。


「はーい、今日もお弁当作って来たよー」

「ん、ありがと」

 

 ビッチ先輩はとても大きな弁当箱を出してくる。

 アクルの弁当を持ってくる。これこそが彼女が屋上へと来た理由である。

 そして、何故彼女がそんな事をするかと言えば。


「はい、あーん」


 ビッチ先輩がアクルの口へと弁当箱から食べ物を運ぶ。

 

「んー、うまい!」


 それを、アクルは美味そうに食うのだ。

 その雰囲気は、まるで恋人みたいである。

 いや、みたいではない。ビッチ先輩はアクルの彼女なのである。パートナー、恋人である。

 だから彼女の目には俺の事なんて映ってないのだ。

 

「じゃ、俺食い終わったから」


 いちゃいちゃが始まり、俺はいたたまれなくなって、空になった弁当箱をしまって立ち上がった。

 このために俺は先に食べ始めていたのである。

 そして二人を残して、とっとと歩き出す。


「あとでな」

「じゃあねー」


 それを二人は見送った。

 いつもの流れである。

 こうなるなら最初から俺の事なんて必要ないのだけど、アクルがどうしてもと言うので弁当を食う間だけは付き合うようにしている。

 まあたった一人の友人だからな、大切にしてやらないと。


 俺は屋上の扉を閉めた。

 この後屋上に来る生徒はいない。二人だけの空間である。

 二人だけで、何をするかはわからないがイチャイチャするだけ――だと思う。

 流石にナニはしないだろう。

 あり得るのか?ビッチ先輩なら。

 屋上をそういう場所にしていたのだから。

 いや、考えない様にしよう。


 俺は階段を降りていく。

 昼休みの時間はまだある。

 相変わらずスマホは鳴っているのだ。 

 1階へと降りると、体育館の方へと歩いて行く。

 体育館は二階にあり、下は吹き抜けになっていた。

 そこには自販機があり、俺はそこでジャングルマンを買った。チェリオの自販機はここにしかないのだ。そしてジャングルマンはチェリオの自販機でしか売っていない。

 それはともかくとして、更に俺は歩いて行く。

 この辺りでもう生徒はほとんどいない。昼休みにここまで来る奴はいない。外で遊ぶ奴は校庭で遊んでいる。

 この奥には部活動の部室があった。

 と言っても、俺は部活には入っていない。

 ただ、人気のないところに来たかっただけである。

 ここも、滅多に人は来ない。人が来るのは放課後、部活動が始まる時くらいと、誰かが部室に物を取りに来る時くらいだ。そういう生徒に何かを言われたらジャングルマンを勧める事にしている。


 だから、俺は安心してスマホを操作していく。

 それから、ほんの少しの時間が経った時だった。

 なんだか突然いい匂いがしたのだ。

 俺は困惑する。

 花の咲く季節ではあるが、そういう匂いではない。

 これは、まるで香水の匂いだ。


「やっぱり!君がデアだったんだ!」


 真後ろで声がした。

 女の声だ。

 綺麗な声だなと思った。

 

「え?」


 俺は驚いて、勢いよく振り返る。

 そこには、凄い美人が立っていたのだ。

 彼女の名前を俺は知っている。

 朝も会ったのだから。

 俺の真後ろでは、兎沢月が悪戯っぽく笑って立っていたのだった。

 俺は驚きながらも、彼女に見惚れてしまったのである。

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