第23話 因果応報
「茶番はもうよい」
ルーカスは、拉致の明かない会話はもうやめだと、苦しそうに涙を流すフォリアを早く救わなければいけないと、エミーリアを細く鋭く睨む。
「では、俺が虚偽を申していると言うのだな」
「本当に知らないのです」
「オクタヴィア王都、第一王子である俺の言葉は全て嘘であると……」
ルーカスがそこまで口にした時だった、
「黙れ!」
突如エリオットが怒声をあげた。エリオットは怒りの表情のまま、エミーリアに視線を向け、片手を振り払う。
「ルーカス王子が虚偽など申すはずはない! 口を慎めッ」
「――っ、エリオット、……様」
「なんと愚かな女だ」
まさかルーカスを亡き者にしようとしていたなんてと、エリオットは愛しかったエミーリアへの気持ちが氷のように冷たくなったのを感じた。
「エリオット様、本当に私ではないのです。どうか信じてください」
縋るように涙を流し始めたエミーリアに、エリオットは冷たい視線を送り、「私はルーカス王子の言葉を信じる」と、突き放した。
「そ、そんな、……どうしてなの」
か細く声をだし、ゆっくりと床に落ちていくエミーリアは、両手で顔を覆って泣き出す。
愛する男からも見放され、絶望を与えられる中、ルーカスがさらに地獄を与える。
床に崩れ落ちたエミーリアの真正面に立ったルーカスは、泣き崩れるエミーリアの頭上から、信じられない言葉を発する。
「我が妻になる者への非道の数々、および愚挙、追って罪を課す」
「妻、……ですって……」
「アイシャ、姿を見せよ」
何か信じられないものを見るようにエミーリアが顔をあげれば、ルーカスはアイシャを傍に呼ぶ。呼ばれたアイシャはルーカスの足元に膝をつくと、頭を下げる。
「お呼びでしょうか?」
「この者が何をしたか、今ここで申してみよ」
アイシャに、エミーリアが何をしたのか、その目で見た光景をここで話せと命令を下せば、アイシャは再度お辞儀をしてから、ルーカスに報告するように事実を述べる。
「この者は、フォリア様を足で踏みつけ、その身に花瓶を投げ、怪我を負わせました」
フォリアの名前が飛び出し、エミーリア、マリッサ、私も驚きのあまり息が止まりそうになった。どうしてここで私の名前なんか……。
確かに花瓶を投げつけられ怪我をしたのは事実だけど、どうしてそれを? と、考えたとき、あの時、誰かの声を聞いたと思い出した。
あの時自害を止めて、怪我の処置をしてくれたのはアイシャだと、今知ることになった。
「アイシャは俺の直属の家臣。お前も会ったことがあるだろう」
ニヤッと口元を緩めたルーカスに、エミーリアはゾクッと背筋を震わせた。あの日、フォリアに花瓶を投げつけた後、突然目の前に現れた者だと思い出す。
けれど、それがどうしたっていうの、と、エミーリアはルーカスをじっと見つめる。
「フォリアは俺の妻になる者だ」
堂々とそれを宣言したルーカスに、私の心臓は飛び跳ねる。
(どうして?)
そんなこと絶対にありえないのに、ルーカスは一体なにを言っているのかと、私は声も出せずにルーカスの背を見つめる。
「我が妻となる者への数々の暴虐、許しがたき行為だ」
「――っ、嘘……、そ、そんなこと……」
「大罪を犯した貴様の処分は、死よりも苦しいものと心得よ」
ルーカスは、身が引き裂かれるような最大の罰を与えるとエミーリアに告げた。
何もかもが崩れる。エミーリアは床に崩れたまま声をあげて泣き出す。
言い逃れなんてもう出来ない。ルーカスは全てを知っている、そう認めざる得なくなり、エミーリアは絶望を味わうとともに、畏れて、身体が震えだす。
そして、マリッサもまた真っ青な顔で、床に崩れ落ち、泣き叫ぶエミーリアを見ることしかできなかった。
「……あ、……ぁあ、エミーリア……」
まさかフォリアがルーカスの妻に選ばれるなど、知りもしない。エリオット王子など比べものにならないほどの地位にいて、世界の中心に立つ次期国王陛下。
オクタヴィア王都に招かれたのなら、一生不自由な思いなどせず、贅沢が出来たのではないかと、マリッサは血が滲むほど唇を噛み締める。
もし知っていたのなら、あんな扱いなどせず、もっと優しくしておけばと、後悔だけが募る。
そして、先ほどの言葉を今すぐにでも撤回したかった。
皆の前で堂々とフォリアとは縁を切ると断言してしまった、その言葉を出来ることなら取り戻したいとマリッサはさらに後悔を重ねる。
身内であったなら、助けを求めることもできた。それに、課せられる罪も軽減してもらえたかもしれないと、今はもう届かない願いに縋りたかった。
だが、すでに全部手遅れであり、マリッサは震えながら、視界が真っ暗な闇に覆われた。
フォリアとは他人となってしまった、酷い仕打ちをし、虐げてきた。今更助けてもらえるとは思えない。それにマリッサもエミーリアもルーカスに対して、死罪に値する愚行をしてしまったのだ、到底逃れられる罪ではない。
「……あ、ぁ、……あアァ――ッ」
言葉など何も出ず、マリッサはただ泣き崩れた。
そんな悲鳴のような泣き声の中、ルーカスが私の方へ歩いてくる。
取り押さえられていた体はいつの間にか解放され、私は床に座り込んでいたのだけど、立ち上がることなんかできない。だって、ルーはオクタヴィア王都、次期国王陛下。
ルーカスが近づいてきたことで、緊張が高まり涙は止まったけど、同時に手が震えてきた。
だって、今までしてきた罪が一気に流れ込むのだから。
(私、なんて無礼なことをしてしまったんだろう)
敬語も使わず、呼び捨てにしてしまって、しかも私を庇って怪我まで負わせて、きっと私にも罰が……。
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