第20話 叔母と義妹の企み

「私が嫌々引き取ってあげたと言うのに、立場も分からない愚劣な行為をするなんて」


ただの使用人が夢を見るんじゃないと、マリッサはエミーリアを抱きしめながら、憎しみに顔を歪める。


「どうすればいいの、お母様」

「大丈夫よ、全て私に任せなさい」


フォリアをラーハルド王子と結婚なんてさせないと、マリッサは怒りに満ちた表情でとある罠を思いつく。

それはとても愉快で、フォリアを地に落とせると、マリッサは怒りに満ちた顔から、楽しい表情へと変えた。これならば、ラーハルド王子からも、城内からも罵声を浴びせられ、軽蔑されると、マリッサはすごく愉快だと、笑いが止まらなくなる。


「お母様、どうされたのですか?」


突然、声をあげて笑い出したマリッサに、エミーリアは顔をあげてその様子を見る。


「分をわきまえさせてあげるわ」

「どうやって義姉様をラーハルド王子から引き離すのですか?」

「耳を貸しなさい、エミーリア」


これは二人だけの秘密なのだと、マリッサはそっとエミーリアの耳に口を当てて、罠に陥れるための作戦を伝えた。






翌日の正午過ぎ、私は謁見の間に呼びだされた。

そこには王様および、エリオット王子、エミーリアが椅子に腰かけていた。物々しい雰囲気の中、私は三人の正面に立つ。


「お呼びでしょうか?」


丁寧にお辞儀をして、私がそう尋ねれば、エリオット王子が立ち上がった。


「尋ねたいことがある」


凛とした声が謁見の間に響き、私は静かに次の言葉を待つ。


「今朝、女神の涙が消えた」

「――?!」


寝耳に水だった。あれほど見せびらかして、ずっと手放さなかった宝石が消えたなど、一体どうゆうことなのかと、私の方が驚いてしまう。


「私の部屋の掃除は、義姉様にお任せしているのよ」


エミーリアがそれを口にして、私は自分が疑われているのだと知る。確かにエミーリアの部屋の掃除は私がしている。けど、宝石を盗むなんてするわけないし、女神の涙はエミーリアがずっと持っていたはず、それがどうして無くなるのかと、目を見開いてしまう。


「フォリア=アルバーノ。念ため、身体検査をする」


エリオット王子はあくまでも無罪を証明するためだというが、大勢の前で私に裸になれとでもいうのかと、瞳が揺らぐ。

宝石なんて盗んでいない、けれど言葉で証明することなどできず、目に見える証拠を見せなければ私は罪を被せられる。盗んでなんかいない、だったら私はここで素直に裸になるしか証明できる方法はないと、奥歯を噛む。


「義姉様がそんなことするはずないと、私は信じております」


両手を前で組んだエミーリアは、可愛い義妹を演じる。当然、私は盗んでなんかいない。


「……わかりました」


無実を証明するには、ちゃんと調べてもらって晴らすしかないと、私はゆっくりと頷く。いくらエミーリアが私を犯人にしたくても、本当に持っていないのだから、調べられて困ることなんかない。

私は胸を張って背筋を伸ばしたけど、ここで予想外の人物が声をあげた。


「私が調べます」


名乗り出たのは、叔母のマリッサだ。


「そうね、義姉様は女の子よ。お母様に調べていただいた方がいいわ」

義母おやとして、娘の無罪を証明しなければいけません」

「エリオット様、いいでしょう」


二人は私を庇うように見せかけた台詞を吐き出す。一見それは仲の良い家族に見え、エリオット王子も王様もそれを許す。


(気持ち悪いわ)


突然優しく振舞うなんて、私はマリッサとエミーリアからとても嫌な気分を味わう。

目の前まできたマリッサは、服の上から私を調べ始める。どこかに隠しているのではないかと、下から徐々に探りながらゆっくりと上部に上がってきて、ポケットに手を入れたとき、突然立ち上がると、私を鋭い視線で見下す。


「あなたは何ということをしたのですか!」


訳も分からず、マリッサは突如大声をあげて私を叱る。どうして怒られたのか、まったく分からない私は、ただただマリッサを見る。

しかし、次の瞬間、私は全身が凍りついた。

マリッサが女神の涙を手にしていたからだ。


「まさか本当に盗みを働いていたなんて」


(嘘、嘘よ。どうして私の服に……)


あまりの恐怖に、声が出ない。


「フォリア=アルバーノ! これはどういうことだッ」


オーフィリア国の王妃に受け継がれる重要な宝石を盗むとは、断じて許されないと、王様が私に怒声を飛ばす。それからエミーリアの悲鳴のような声がする。


「ああッ、義姉様がまさか盗みをするなんて!」


(違う、私じゃない)


「エミーリアの願いで、城に置いたのが間違いであった」


エリオット王子もまた、私を冷たく見る。いや、謁見の間にいる全ての人が私を罪人として見つめる。きっと他にも盗みを働いていたかもしれないと、とても冷たい空気が生まれる。


「ち、……違います!」


喉に詰まった声がようやく出て、私は盗んでいないと叫ぶ。


「言い訳など見苦しい、あなたの服からコレが出てきたのは、どう説明するつもりなのですか!」

「叔母様、何かの間違いです」

「間違いなどではありません。女神の涙はここにあるのですよ」


私を叱りながら、マリッサは虹色に輝く宝石を私に見せつけてくる。これが偽物だとでもいうのかと、責める。

鮮やかに輝く宝石は、まぎれもなく女神の涙。私は全身から血の気が引いていくのを覚える。


「一人になってしまうあなたを可哀想だと、引き取ったのが間違いでした」


マリッサは勝手に身内にしたくせに、恩を仇で返すなんて、親子の縁を解消しますと宣言し、この件については、私一人の責任だと押しつける。


「あなたとはもう親でも子でもありません。罪を償いなさい!」


部屋中に聞こえるように大声で縁を切ったマリッサは、罪人とは関りはないと断言する。

身内として一緒に罪を課せられたら困るのだと、マリッサは王様とエリオット王子にそれを証明する。この場をもって、私との関りは全て無くなったと。

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