岩間

@Yoyodyne

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手なんてそんな一々洗わんて僕は━とI.K.が言っているのを私は小学生の頃に親が買い与えた学習机に座り絵を描きながら聴いていた。別々の人間の顔の主要部位で構成されたその顔は笑ってるようにも悲しみに顔を曇らせているようにも見えた。そうした等身大の顔をもう既に3桁は描いていた。それらが積み上がり紙魚やチャタテムシの帝国を作り上げていた。その王国は立憲君主制を採択していて少数で特権階級に属する紙魚を大量のチャタテムシが支えることによって成り立っていた。お互いに監視させ、チクれば報酬を与えシステムによって彼らの関係に猜疑心を植え付けた。選挙制度は存在していたが、それはガス抜きのための茶番劇であり、国民の関心ごとを知るための道具でもあった。

紙の繊維を特殊な方法で食み加工することで超音波兵器を作り出しそれを腹で高速で擦ることで生理反応に働きかけチャタテムシ間のパラノイアを盤石なものにした。そんなわけで一番下層の似顔絵から表情が変わっていた。パラノイアによりチャタテムシ同士の対立を煽り結託して強大な対立勢力になるのを未然に防ぐことができると紙魚は考えていた。ここまで絵(といってもクロッキーだが)の余白に書き付けると母親を呼びつけ「外に出る」といい、数万円(数える必要はあまりなさそうなので正確にいくらかは気にしなかった、これだけあれば充分だろう)むしり取るように受け取ると気不味い空気が流れたため苦虫を噛み潰した顔をしてその場を早足で後にした。

「集団ストーカーは学校、警察、警官OB、警備会社、タクシー会社、新聞販売店、郵便配達、宅配業者、消防団、コンビニなどでーす。」さっきまで聴いていた街宣が頭の中でさっきから繰り返し流れている。


設定注:これは現実の自分自身が置かれた状況を元に創られている。神話、私小説、実存小説、モダン、マジックリアリズム、ポストモダン、メタモダン。現実と虚構の境は古代から現代まで人の独断的に予見するよりも曖昧なものである。現実は知覚によって把握されるがこれは表象でしかない。錯覚を現実というものはいないだろう。しかし、錯覚の括りに入れられていないその他の風景はなぜ錯覚と違うと確信を持って言えるのか?日常生活を取り巻く概念はストーリー性の薄いフィクションである。即興演劇のようなものだが象徴秩序という台本が用意されている。自己にペルソナのような設定を与える時基盤となってるものは無色なキャラクターという自我でこれをそのまま━言語の限界から現状不可能(限りなく近づけることはできるが達成することはできない。)━叙述したとしても厳密にはノンフィクションともリアリズムとも言えないだろう。よってここでの設定は一般に期待される現実から隔離され安全を確保された設定ではなく自称のような裏付けのない宣言(勘違いしてほしくないけどこれは願望ではなくこのような欲求があるように振る舞っているだけである)を設定と呼んでいるわけでこれは一種のパフォーマンスアートの演技と同等のものである。マルセル・デュシャン、ヨーゼフ・ボイス、アンディ・ウォーホルが自己の人生を再構築したようにそれを捨てるサイクルが早いだけで虚構を実現するわけでもなくそのまま現実化するシミュレーションの試みである、単に。妄想は主観に従い事実をセットする。妄想はそのミームを得た瞬間から事実になる。信念でも観念でも固体化した想念の関わるものはたとえ捨てられるものでも他の何にも勝って現実的な存在なのだ。


猫が轢かれ海苔のように薄べったく広がってアスファルトにへばりついていたのを見たことがある。

その亡骸の近くにネズミが徘徊しており、時々その黒海苔をつついていた。亡骸の傍らには上半身のないネズミ。それも一匹じゃない5匹のネズミが同じように上半身が齧り取られゼリービーンズのようにカラフルな内臓が飛び出して散らばっている。尻尾は汚物の成れの果てで癒着し千切ることなしには外れなさそう。

私は扁平になった猫の死骸を選び近寄り手で触ってみると音もなく剥がれてその裏にビッシリとウジがたかっていた。

私はそれを払い落とし、持ってた虫かごにぞんざいに放り込むと元は後ろ足と思われる部分が千切れ垂れ下がった。

私は自分の部屋に持ち帰った戦利品たるその猫を飾り名前を付けた。3日後には部屋にウジが沸き寝てる間に自身の重みに耐えきれず天井から落下してきてそれが口に入った。丸々太ったウジは仄かに甘く香ばしい。小腹を満たすのに丁度良く、目を閉じて咀嚼しその味を楽しみんでいると意識がゆっくりと夢へ顚倒していった。夢の中で人の頭ほどの大きさのウジに追いかけまわされた。やがて捕まり(全長2メートルのハエにレイプされ卵産み付けれるシーン:6本の脚で押さえつけられ身動きが取れない。抵抗しようとも思わなかったが。食ったウジの分の補填を求めているかのように次から次に雄性外生殖器つまりpenisを突き刺し精漿にのせてRNAを送り込んでくる。同意も愛も必要ないセックスは空中で行われる。マウンティングしてくるハエはたっぷりと性行為に時間をかける。しかし、夢の中では時間の感覚も痛覚もない。なんとなく最大10時間、なんとなく痛みを感じるだけだ。これは火のない煙であり、ありもしない出来事の記憶である。ブブブブ、ブブブブ。)

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