第6話 甥っ子の話


「叔父さん、大阪の「万博記念公園」で、幼児の人骨、しかも、熱湯で煮沸したような形跡のある物体が、発見されたニュースを知っていますか?」




「ああ、全国ニュースで、キチガイじみた猟奇的事件だと報道していたからなあ?良く、知っているよ」




「で、僕、少し心配になって来ました。あの、約1時間のユーチューブの動画の作成や、それのUPについて、何か、この僕らに、捜査が及ぶ危険性は無いのでしょうか?この事件を機にね。僕自身、非常に心配なんですが……」




「それは、前にも言ったように、知らぬ存ぜぬで通すだけだよ。



 もし、大学の誰かが警察にチクったとしても、あれは、自分の叔父さんの「カクヨム」での評価があまりに低いので、自分らの映画技術を駆使して、まあ、叔父さんには内緒で、応援したと頑張るのだよ。




 絶対に、共謀を認めてはいけない。そうすれば、全くの単独行為になる。




 それにだ、つい2週間前に、警視庁のサイバー犯罪対策課から連絡があってのう。



 あの動画は、完全なトリックだと見破られたのだ」



「どうやってですか?」



「なあに、光学透過分析と音声認識のプロに見てもらったそうだ。



 ビデオ・カメラにしたたり落ちる鮮血は、単なる顔料で、本物の血では無い事が、光の可視光線波長分析で分かったそうだ。



 それに、母親役の女性の絶叫を、音声認識のプロが聞くと、明らかに演技声であると分かったらしい。君の彼女はまだまだ俳優には向か無いらしいなあ……。で、警視庁は、これはイタズラ動画のUP事案として、この件は既に処理されてしまったと言うのだ。



 つまり、もはや、殺人事件の動画では無いと証明されてしまったのだ。




 君にしては、もの凄く残念だったかもしれないが、インチキを見破られた以上、これ以上、警視庁が動く事は全く無い。だから、君らは、絶対に、安全なんだよ」




「そうですか、そう言う事でしたか?それなら、この件は、大丈夫ですね。




 しかし、叔父さん、今問題となっている「万博記念公園」での、幼児殺しの真犯人に、思い当たる者が、一人いるのです!」




「何だって、一体、誰なんだ?」




「それが、僕と同じ大学の映画学科に在学中の学生なんですが……」




「その学生が、どうしたと言うのだ?」




「いいですか、叔父さん。僕らが、あのインチキ動画の作成を始めたのが、今年の5月頃です。僕らは、映画学科の中でもでも、どちらかと言うと、ホラー系やスプラッター系の映画を作りたい者達の寄せ集めです。で、中には、性格の変わった者も多いのです。



 その内の一人が、あのインチキ動画を作っている途中から、少しづつ変になってきた者が一人いたのです。名前は、中村和夫と言い、現在23歳ですが、3年前に学生結婚して、子供も一人いたと聞いています」




「その中村某が、どうしたと言うのだ」



「うまく言えませんが、明らかに、精神的におかしくなってきたのです。で、この前、彼の住んでいるアパートに行ったら、子供の泣き声が聞こえません。彼の父親は、地元では資産家だと聞いていましたから、学生結婚もできたのですが、以前、フラリと行った時は、確かに、子供の泣き声も聞こえたのですが、今回は、子供のいる様子さえ感じませんでした」




「じゃ、警察に、それとなく通報したらどうだ」




「それも考えたのですが、そうすると、話の都合上、例のインチキ動画の話もしなければなりませんよねえ」



「うーん、それは、確かに難しい話だが、単に、実家に奥さんと子供さんが帰っただけでは無いのか?」



「それも考えたのですが、奥さんの実家の住所は分かりません」



「だったら、大学の事務室へ行って、彼や彼の奥さんの実家の住所を聞いたら良いではないのか?」



「そ、そうですね」



「それにだ、万一、その場合だったら、幼児殺害だけでは収まらないだろう。学生結婚した奥さんも、何とか処分しないとな、と考えるかもな……多分、奥さんも、もしかしたら……」




「いや、そこまでは、まだ、考えたくもありませんよ」



「なあ、護君(私の甥っ子の名前)よ、精神的に追い詰められる人間は、このコロナ渦、腐る程いるのじゃ無いのか?君の意見を、そのまま採用すれば、精神科や神経科に通院している患者、全員が、被疑者になってしまうでは無いか?」




「うーん、そうですよね」




「まずは、大学で、君のクラスの中村某の奥さんの安否を確認するのが、先だろうなあ……」




 次の日、甥っ子から、電話があった。




「叔父さんの言う通りでした。中村和夫君が、少し、精神的に体調が悪いと言うので、奥さんが愛想を尽かして、実家に帰っていました。僕は、中村君と同じ大学の同じクラスだと言ったら、奥さんもその子供の声も聞こえました。僕の、考え過ぎでしたね」



「どうせ、そんな事だろうと思ったよ。ただ、こうなると、問題は、例の大阪の「万博記念公園」の幼児の人骨事件なんだが、これは、私の思い込みかもしれないが、どうも私に恨みを抱いている誰かが、裏で、暗躍しているようにも思うのだがね……」



「どうして、叔父さんは、そう言う風に考えるのです?」



「それは、単なる児童虐待で幼児を殺したにしても、普通は、そのまま死体を捨てて置くか、放置して置くかだろう。



 しかし、今回の事件の場合、その幼児を殺した後、グツグツと煮込んでいるんだ。こんな事は普通の人間では考え付かない。完全なる狂気の行動だ。



 と、言う事は、つまり、あまり言いたく無いが、私の駄作『狂気のユーチューバーⅠ:一年後、僕は、愛犬を食べます』を読んだ事のある人間か、何らかの方法で、その小説名を知って、殺害方法を思い付いたと考えるのだよ。つまり、私に、強烈な恨みを持っている人間だと、やはり、そのように思えてならないのだ」



「しかし、叔父さん。僕らが作った例の動画は約1時間しか、ユーチューブにUPされていません。「カクヨム」での叔父さんのPV数は、約300ポイント、つまり約300人しかアクセスしていません。そんな、極少数の中に、どのような、強烈な恨みを抱いた人間がいたと言うのです?」



「今のところは、私は、『関西推理』の同人の誰かを、考えていたのだがねぇ。しかし、今から20年も前に、かってほんの2年間程度、在籍しただけだからなあ……暗中模索とは、正に、この事だ。




 ともかく、大阪府警に頑張ってもらうしか無いのだが、あいにく、幼児の人骨の発見された場所には、防犯カメラの死角になっていたそうだ。こりゃ、難事件になるなあ。




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