とある並行世界の春の終末
卯月二一
第1話 『天使の化石』
聖なる
イザヤの預言書6章3節より
「先輩、待ちましたか?」
アカリだ。実は三十分も前から待ってたなんて言えない。初めて見る私服姿のせいで少し返事が遅れる。彼女の白のワンピースが
「あ、ああ。ちょうど2時きっかりだね。俺はさっき着いたところ」
新東京第七区画、国立の美術館や劇場があるこの場所も、祝日の今日はいつもより家族連れなんかが多く見える。
「第三区画よりはマシですね。途中通ってきましたけど人で
「あそこは商業地区だからね。国の特別支援電子クーポンの期限が今日までだし仕方ないよ。俺はもう全部使い切った。アニメにすべて
「ふふ、私もですよ。『魔法少女マジマジ』グッズでいっぱいです」
そんなことを言いながら俺たちは目的の国立美術館を目指す。今日は『
「大災害以前の偉大なる職人たちの作品が俺たちを待っているのだよ。分かるかねアカリくん」
「ええ、もちろんです。先輩!」
これが彼女とのデートではないことは残念だが、二人しかいない我が校の
「これぞ原点にして頂点!」
災害の
「先輩、あれを見てくださいよ!」
「ん? ああ、それか……」
一際大きなガラスケースが見えた。すぐ側にはガードマンなのだろう制服を着た小太りのおじさんの姿もある。
「行きますよ!」
「俺はそれには興味が……。お、おい!」
俺は手を掴まれて引っ張られる。その展示物よりも
「これを見るのも今日の目的なんですからね」
俺が放されてしまった手の
「キリル文字だっけこれ?」
「旧ロシアなど多くの国で使われていますね。二十年前の大災害ではユーラシア大陸全体も旧日本同様
ロシア語で書かれたプレートには日本語で『天使の化石』とある。
「何というかメルヘンチックな名称だけど、どこに天使の要素があるんだい?」
「そんなこと知らないですよ。発見した考古学者のセンスですから……」
それは真っ黒で表面に脈のように見える線状のものが浮き出ている。俺のセンスなら『悪魔の
「天使って
「さ、さあ?」
パンフレットの説明を読むと、これは数年前崩れた断層から発見された未知の物体であり世界的にも話題になったようだ。俺は当時高校受験に向けて頑張っていたからかそのニュースは知らなかった。
科学者たちもお手上げだったようで、それが
この謎の物体は複数個発見されており、このように世界の主要先進国へ配布されているということだ。あの大災害でかつての侵略戦争は
「
「えっと……。そういうことも含めて私たち『歴史研究部』のテーマじゃないですか。先輩、ウチは『アニメ研究部』じゃないんですからね」
「アカリ、お前がそれを言うのか?」
数日後、かの国から世界にばら
人類は気づくのが遅すぎたのかもしれない。いや、かの国の政府は知っていたのかもしれないが今となってはもう誰にも分からない。
かつて地球と呼ばれた青い生命の惑星は、死の星と化した。
空は、3対六枚の翼を持つ異形の怪物が支配している。
それはかつて人類が想像した
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