堕ちた勇者と竜の呪い
赤菊珠
プロローグ
本格的なダンジョンに挑むのは初めてだった。名声もない。仲間もない。おまけに本来勇者が兼ね備えている資質のほとんどが自分にはない。
石造りの遺跡に足を踏み入れ、青年は周囲を警戒しながら奥へ進む。途中何度かコウモリの魔物が襲ってきたので逃げる。怖いから逃げるのではない。非効率だから逃げるのだ。彼らから得られるものなど、たかが知れている。
青年はミスリルの兜を締め直し、更に奥へ進む。このダンジョンの最深部に魔王の手先がいるという情報を元に。それはとうてい信じられるものではないが、それでも情報源、青年が立ち寄った小さな村の住人は困っていた。だから助ける。青年は、そういった生き方しか知らない。
遺跡の中は何もなかった。コウモリの魔物も既に登場しなくなり、青年の心の中に不気味さを加速させる。
不自然な場所に、四角い穴があった。いや、たんなる扉の跡だ。奥は真っ暗だが、青年は入ってみた。
まぶしい。あまりの眩しさに青年の眼がくらむ。
そこは綺麗な部屋だった。金色の壁に床。水晶のシャンデリア。赤い絨毯。楽しそうに揺れる木馬。まるみを帯びたタンスに透明のテーブル。
「…………?」
中央のテーブルの上にはランプが置いてあった。ぴかぴかだ。青年は何故かそれに惹かれた。ちゃりん、と金属音が聞こえる。部屋の美しさに魅了された彼に、戻るという選択肢はない。
青年は取り憑かれたようにテーブルに近づき、ランプに触れようとした。その時
「………!」
青年はたちまちランプの中に吸い込まれ、気がついた時は草原の上にいた。
夢、だったのだろうか。青年は未だぼうっとしながら兜を脱ごうとする。あれ?頭がおかしい。そういう意味ではなく、耳の上らへんに、変なシコリがある。
「………!!」
鏡を見た勇者は絶望した。自分の姿が、いままでとは全く違う姿になっていたのだから。
「悪魔………」
それが青年の感想だった。悪魔。そうだ、おれは、あの一瞬のうちに悪魔になったのだ。
記憶が霧のようにボヤけている。もう何も思い出せない。青年の頭の中にはただ、ただ一言が頭の中に響いていた。ひょっとしたら、それはランプの精の声だったのかもしれない。
「孤独な勇者よ。私が君を悪魔にしてあげよう」
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