第6章・接触 #3
野崎と白石、宇佐美の3人は、美波の泊るホテルを後にすると、宇佐美が宿泊しているホテルに戻った。
ひとまず今日はここに泊り、明日帰るつもりで素泊まりできる部屋を取ろうと思ったが、あいにくダブルの部屋が一つしか空いてないと分かり、野崎と白石は顔を見合わせる。
「しょうがないよな。今夜だけ、一緒に寝ようぜ♥」
そう言って擦り寄ってくる白石に、野崎は身を引いた。
「1つのベッドにお前と2人⁉冗談。じゃあ俺、床で寝るわ」
「何にもしないってぇ」
「よく言うぜ。仮眠室で寝込み襲う奴が」
野崎はフロントに「簡易ベッドとかあります?」と聞く。
あいにく今日は、ほぼ満室で簡易ベッドの空きもないのだという。
「諦めろって。何もしないって約束するからぁ」
「じゃあ車中泊する」
そう言って駐車場へ逃げようとする野崎の腕を、白石は掴んで懇願する。
「一緒に寝ようよ、野崎ぃ。たまにはいいじゃん」
「よくない!」
フロントの前で、男2人が揉めている様子を宇佐美はじっと見ていた。
(なにやってんだ?あの2人)
「部屋、取れました?」
心配して聞きに来た宇佐美に、白石が不満げな顔をして言った。
「あぁウサギちゃん聞いてよ。それがさぁ、ダブルしかなくて……仕方ないから一緒に寝ようって言ってんのに、このオッサンに拒否られてる」
「俺が悪いみたいな言い方すんな」
「あはは」
笑う宇佐美を見て、白石が気づいたように言った。
「そうだ!ウサギちゃんのシングルに野崎が泊って、ウサギちゃんがこっちに来ればいいじゃん」
「え?」
野崎は驚いて首を振った。
「お前、何言ってんの⁉それはダメ!絶対ダメ‼」
「何もしないって」
「ダメダメダメ!絶対ダメ‼」
野崎は白石と宇佐美の間に割って入ると、「ならお前がシングル行け!」と言った。
「そうだよ!それが一番いい。白石がシングル行け」
「じゃあウサギちゃんと野崎が一緒に寝んの?」
白石はそう言うと、ふいにニヤァっと笑って野崎の肩を抱いた。
「なぁんだぁ……そうしたいならそうしたいって――早く言えよ」
「は?」
「一緒に寝たいんだろう?ウサギちゃんと」
「なっ⁉」
「――」
野崎と視線が合って、宇佐美は思わず俯いた。
「あぁ分かった分かった。しょうがないな。じゃあ俺は寂しく独り寝するわ」
「ちょっと待て」
「不同意わいせつには気をつけろよ」
白石は素早く耳元でそう囁くと、笑いながら荷物を手にして、さっさと行ってしまう。
「ちょっと――おい!」
野崎は唖然としながら、「なんだよ、あいつ」と呟き、ハッと気づいて振り向いた。宇佐美が困惑した顔で自分を見ている。
「あ――あの……なんか。ごめんな」
野崎は頭を下げた。
「……」
「俺、車で寝るからさ」
「え?」
「気にしないで」
そう言って外に出ようとする野崎を宇佐美は慌てて引き止めた。
「いいですよ、別に一緒でも」
「……」
「ベッドって言ってもダブルでしょう?2人で寝れない大きさじゃないと思うし……」
そう言って部屋に入り、置かれたダブルベッドを前にして—―2人はしばし無言で佇んでいた。
――午後21時。
夕飯を近くのコンビニ弁当で済ませ、宇佐美はノートパソコンを使い原稿書き、野崎はぼんやりとテレビを見ながらベッドの上で寛いでいた。
時折スマホを見ながら、キーボードを打つ宇佐美を、野崎はじっと眺めながら、ふと呟いた。
「彼女――」
「え?」
顔を上げて自分を見る宇佐美に、野崎は小さく笑って言った。
「江口さん。なかなかしっかりした
「……そうだね」
宇佐美はそう呟いて、すぐに視線をディスプレイに戻した。
昨夜の出来事が脳裏を過り、何故か急に後ろめたい気分になる。野崎の視線を感じているが、わざと気づかない振りをして、宇佐美はキーボードを叩いた。
何かしゃべらなきゃ……
息が詰まりそうな気がして、宇佐美はふいに弾かれたように言葉を発した。
「あの時――何考えてたの?」
「え?どの時?」
急に聞かれて野崎は首を傾げた。
「ほら、コミュニティに人が大勢いて、あそこから見ていること気づかれていないかって彼女に聞いた時ですよ。何か気にしてるように感じたから……」
「あぁ」
野崎は頷くと、「なんかわざとらしく感じたからさ」と笑った。
「自分たちは平和に暮らしてるアピールをしてるみたいで。だから、俺たちがあそこから見てることを知ってて、わざとああいう様子を見せてたのかなぁって――
「あの男の正体分かったんでしょう?」
宇佐美に聞かれて野崎は黙って頷いた。
「倉持茂。元陸上自衛隊の幹部だった」
「自衛隊……」
「別にそれ自体おかしい事じゃないけど、あの時見かけた3人の若い男。ひょっとしたらアイツ等も元自衛官かもしれない。敷地内で倉持と行動を共にしてるところを見ると、彼が呼び寄せたのかもな」
「コミュニティ内で自警団でも作っているのかな?」
「かもな。けど、なんのために?そんなに内部の治安が乱れているわけじゃなさそうだし。外部からの侵入を警戒しているのだとしたら、それこそなんのため?――だ」
宇佐美は視線を上げて野崎を見つめた。
「兵力を集める目的は?」
「単純に考えればテロだろうな」
野崎はそう言って苦笑した。
「表向きは人畜無害な環境団体。でも実はテロ集団――」
大袈裟な話じゃなけりゃいいけどな……
大きく伸びをして、野崎はベッドに横たわると、じっと天井を見上げた。
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