第34話 零捌ダンジョンでのトラブル
「晶右手の調子どう? 大分慣れた?」
「楓ちゃ~ん! 私のこと心配してくれてるの!? ええ、大分慣れたわ。てかこいつ凄いわ。本物の自分の右手みたい。おっさんの癖にやるじゃねえか」
「ちょっと! ムラマサにそんなこと言わないで! もう晶なんか知らない!」
「あ、あ、あ、あ、ご、ごめんよ~、楓ちゃん、ついムサいおっさんが視界に入ったから……」
「だからムサいおっさん言わない!」
「あ、ごめん、ムサくないおっさんでした」
「よろしい!」
――はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
第弐ギルドの倉庫に保管してあったダンジョン遺物からよさそうなものを見繕い、晶に渡した『
青地に赤の紋様の入った見るからに禍々しい義手だ。
「そんでどうだ? 使い勝手は?」
「は? まあ大分慣れたわね。まだ力の入れ方がいまいち上手くいかないけど、あと2,3日で慣れてみせるわ」
「そうか。頼んだぞ」
「ふん、言われなくてもやるわよ。楓ちゃんの為にね」
「ねえムラマサ~、そんで今何処に向かってんの~?」
「あ? ああ、それはなあ――」
――
零捌ダンジョンは長野県I市にある。演習場からは車で約1時間も走れば到着する距離。
弐拾弐ダンジョンへ挑む前に、まずは踏破済みの零捌ダンジョンでパーティの連携を確かめる、それがムラマサのプランだった。
唯が以前零捌ダンジョン深層まで潜ったというのは聞いていたので、難易度的にも最適なダンジョン。
「まあ急造パーティだからな。いきなり未踏破に挑むのはリスクが高いだろ? とりあえず零捌で馴らそうってわけだ」
(ねえ、ムラマサ、本当に弐拾弐ダンジョンの内部構造わかんないの?)
(あ? ああ、ランダムクリエイトしたからな。どうなってるか俺にも分からん)
「ふたりともどうしたんですか? コソコソ話なんかして」
「あ、いや、なんでもないよ」
「ええ、なんでもないわ」
「そうですか、ならいいんですけど」
ダンジョン局副局長八雲に言われたとおり新ダンジョンは、ムラマサが内部構造を弄らないランダムで生成された。
当初ムラマサは小細工をうとうかとも思ったが、あの得体の知れないダンジョン局副局長のことだ、何処でバレるか分かったものではない。
結局言いなりになるしかない。それが彼の出した結論だった。
「おい、皆、あと5分くらいで着くからな。準備しとけよ」
ムラマサの呼びかけにそれぞれ返事を返し、各々が気合を入れる。
緊張気味の唯、ただただ楽しそうな双子、そして楓を眺めて惚けた顔をする晶。
そうこうしている間に車は零捌ダンジョン専用駐車場へと到着した。
◇
「おい、俺はダンジョン探索の受付行ってくるからここで待ってろ」
「はーい」
「りょーかい~!」
「お、お願いします!」
「さっさと行ってこい」
4人に送り出され、ダンジョン入り口のすぐ近くに併設されてある4階建てのコンクリート造りのビルへ入る。
エントランスを抜けると直ぐにカウンターがあり、ふたりの受付嬢が立っていた。
「ようこそ零捌ダンジョンへ! 第壱ギルド所属の探索者の方はこちらへ、第弐ギルド所属の探索者の方はあちらへお並びください」
今日は平日とあってか、ダンジョン探索に挑むパーティは少なかった。
第壱ギルドの受付に並んでいたのは一組、第弐ギルドのほうはムラマサだけ。
(パーティ名記入か。楓と椚はなんて言ってたっけ? 13デビルだっけ? それにしてもダサい名前だな。まあいいや、とりあえず唯のパーティ名にしとくか)
カウンターの上でダンジョン探索申請書にパーティ名を記入する。
――ゆいにゃんズっと。
「これでよろしく」
「はい、承りました。しばらくお待ちくださいね。今受領印を押しますので」
受付嬢が書類に不備がないか目を通している間手持ち無沙汰にしていると、何処からか視線を感じた。それも複数。
視線の先をチラリと見れば、その相手は隣でムラマサと同じく書類を記入していたパーティのメンバーだった。
思わず目が合う。
「あれ~? 唯が潜るの? あんた唯の保護者かなんか? あれ? あいついないん? てか申請くらい自分でやれよ、マジで甘やかされてんなあ!」
「あ? 誰だおめーら?」
隣のパーティのひとりに声を掛けられる。その口調は明らかにこちらへの侮蔑を含んだものだった。そのパーティは5人。
(なんかどっかで見たことあるな。あの白いツナギに黒のゴーグルのちっちゃいのに、黒いツナギに白のゴーグルのでっかいの。確か配信者か。ん? その後ろにいるヤツ、あれは確か……)
ムラマサに挑発的は発言をした白いツナギを着た人物の後ろに立っていた人物にムラマサは見覚えがあった。確かあいつは1級探索者の――
(そうだ、
「なあおっさん、唯が此処へ潜るんならさあ、うちらと競争しようよ! どっちがモンスターを沢山狩れるかさあ! 唯は例の双子のパーティメンバーになったんだろ? んで新ダンジョンに潜るとか。新ダンジョンにどちらが先に潜るか賭けて勝負しようぜ!」
「ふむ……」
ムラマサは考えた。
ただ単純に楓たちと唯たちの相性やらコンビネーションを確かめるよりも、もしかしたらこちらのほうが……
ならこの話悪くない。ムラマサは白ツナギの提案に乗ることに決めた。
「ああ、いいだろう。ここで少し待っててくれ。うちのメンバーに話してくる」
「りょうかい! できるだけ早くしてくれよな。うちらそんなに暇じゃないんでね」
「ああ、わかったよ」
ムラマサはギルドビルを出て、パーティメンバーの待つ車へと向かった。
◇
「遅かったじゃない。申請ちゃんとできた? 私がついていかなくても大丈夫だった?」
「お前は俺のおかんか。そんなもんできた……」
「ん~? どうしたの~ムラマサ~? もしかして本当にできなかったとか~?」
「いや、ちょっとな、予定を変更しようと思ってな」
突然のムラマサの言動にメンバー全員は驚嘆の声を上げた。
それは当然のリアクションだ。わざわざここまで来てそれはないだろう、ここにいるメンバー全員が思った。だがムラマサはそんな様子も気にせずに口を開いた。
「唯、お前白のツナギ着たやつと、黒のツナギ着たヤツに知り合いいるか?」
「えっ!? は、はい、知り合い、というか、一方的にちょっかい出されてると言うか。多分その子達シロさんとクロさんですね。私と同じダンジョン配信者の」
「ああ、やっぱりな。突然の話で悪いんだがな。そいつらのパーティとモンスターをどちらが多く狩るか競うことになった」
「はっ!? おっさん! なに勝手に決めてきてんだよ!?」
「ふんっ、いいじゃん、絶対うちらのほうが勝つに決まってるし!」
「だね~、おねえ。僕らがそんじょそこらの配信者に負けるわけないじゃんね~」
「わ、私はマネージャーさんがそうしろとおっしゃるなら受けて立ちます!」
(唯のヤツいいね。隠しきれてない闘争心が見え隠れしてるぜ。晶は、まあ右手をうまく使いこなせるかここで見極めるとするか)
「それでだ、今回楓と椚は待機だ」
「は!? な、なんでよ!?」
「え~! ム~ラ~マ~サ~、そんなの酷いよ~!」
「代わりに俺がいく」
「『は!?』」
ムラマサの突然の俺が出る宣言に一同が大きな声をあげる。
対シロクロパーティとの勝負は一体どうなってしまうのか。
勝負の行方は神のみぞ知る。
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