我らダンジョンクリエイターズ~閉鎖危機のダンジョン課を救う為異世界から女魔王と女勇者を呼び出しました〜

ハルパ

プロローグ~ダンジョン課のピンチ!~

 ――赤字です


「はあ、そうなの?」


 ――はい、大赤字です


「へえ、大変だな~」


 ――はい、非常に大変です。


「ほお、そんなに? そんなにヤバい感じ?」


 ――はい、我々ダンジョン2課閉鎖の危機です。


「へえ、閉鎖の危機ね…… え? 今閉鎖って言った?」


 ――はい、閉鎖の危機です


 は!? え、マジで!?



    ◇



 ここは経済産業省ダンジョン局ダンジョン2課のとある一室。

 俺は今上司に呼び出され驚愕の事実を聞かされたところだ。現在ダンジョン2課はダンジョン運営にかかる経費の増大と、国民からの『税金の無駄遣いを止めろ』のシュプレヒコールのダブルパンチを喰らって、当課が閉鎖の危機に立たされていることを告げられた。

 正に寝耳に水の非情な通告。


「何か現状を打破するアイデアはありませんか?」

「え、んなこと言われても俺は只の雇われだし、薄給でこき使われてるだけなんすけど」

「はあ、どうしましょう……」

「いや、どうしましょうって言われても……」


 ここは愛知県名古屋市のとあるビルの一室。経産省ダンジョン局の下部組織「ダンジョン2課ダンジョンクリエイト室名古屋支所」だ。

 俺村田正雄と俺の上司、三鬼島澪みきしまみお26歳(独身)は呆然と立ち尽くしていた。

 確かにうちがかなりヤバい状況にあるっていうのは、このところよく耳にしていた噂だったのだが、まかさ本当にそんな崖っぷちに立たされていたとは。


 今から約30年前日本各地に突如として出現したダンジョンは、今までこの世界で見ることのなかった有用な鉱石、貴重なアイテムなどが発掘されたことにより、日本国中でダンジョン探索ブームが巻き起こった。

 またダンジョン内で発生したモンスターは研究用素材、毛皮などが重宝され、なおかつモンスターの中に内蔵されている『魔核』という宝石のような鉱石が未知のエネルギーを秘めていることが分かり、日本はその無限の可能性に一喜一憂した。

 国はダンジョン探索を免許制にして一般国民をダンジョン探索者として採用する方針をとった。当時不況にあえいでいた日本は、あらたな雇用を生み出す起爆剤としてもダンジョンを利用することにしたのだ。


 だがそれも昔の話。日本で現時点で確認されているダンジョンの数はおよそ20か所。そのほとんどはあらかた探索され尽くして、現状探索が完了していないダンジョンは片手で足りる程度しか残っていない。

 貴重な鉱石やアイテムはあらかた取り尽くされ、ダンジョンから得られるのはモンスターからドロップする魔核とモンスターの死体のみ。

 そんな現状に頭を悩ませていたダンジョン課の面々に、今から約5年前、一筋の光が差した。それがこの俺村田正雄の登場だ。


 俺にはある力があった――


 ――ダンジョンクリエイトの能力


 その名のとおりダンジョンを作り出す能力。どこからか俺のことを知ったダンジョン課の連中が突然俺の家に押しかけてきて、ダンジョン課で働いてくれと宣ってきたのだ。

 その頃色々事情があってニートをしていた俺は、衣食住の提供と給与の支払い、年金基金や健康保険などの手厚い福利厚生を約束させ、ダンジョン課で働くこととなったのだ。


 なったのだが……


「とにかくダンジョン生成にお金がかかりすぎるんです。土地の買収から始まって周辺のインフラ整備、周辺企業への売り上げ低下などに対する補填等々、最初はよかったんです。物珍しさから沢山の探索者が訪れてくれました。ですがここ最近のダンジョンの有様見ました? ダンジョンの単純な構造、弱い敵、大した戦利品も得られず、仮に新しいダンジョンを生成したとしても、直ぐに熟練の探索者が最下層まで到達してしまい、それをネット上へ配信する。余りにもリスクとリターンが見合ってないんです」


「まあ、な。ダンジョン作るにも広大な土地が必要だしな。実際は入り口だけ作ったらダンジョンの中はほぼ異界のようなもんだから、別にそこまで広い土地なんかいらねえんだけどなあ。上の頭の固い連中やらマスコミやらがうるせえからなあ」


「ムラマサさん、なにか起死回生のアイデアはありませんか? 今日は2月2日、年度末3月31日までに現状を打破するような打開策が見つけられなければ、私達のクリエイト室は閉鎖にされちゃうんですよおぉぉぉぉぉ」

「あぁ、分かったから泣くな。さっきまでの凛とした澪はどこ行ったんだよ」


 俺の上司三鬼島澪はパっと見クールビューティを装ってはいるが、中身はかなりのポンコツだ。ちょっとなにかあるとすぐに泣く。


「ああ、わかったわかった。ちょっと俺の伝手頼ってみるから。2,3日待ってろ」

「え!? 本当ですか!? はい! 分かりました。待ってます!」

「じゃあ俺もう帰るから。俺のタイムカード押しといてくれよ。残業1時間つけて」

「え、いや、それはダメですよ」


 ――はあ…… やっぱダメ?


 まあ冗談で言ったんですよ、はい冗談です。

 しょぼくれながら俺が向かうのは当然俺の城。


 ――社宅だ。


「けーったぞー!」

「おかえり~! ムラマサ~! 今日のご飯なに~?」

「おっかえり~! ムラマサ~! おみやげは~?」

「ねえよ、そんなもんは。メシは~、冷凍のピラフがあっただろ、あれにすんぞ」

「え~!? またピラフ~!? 私ムラマサの手作り料理が食べたい!」

「食べたい~!!」

「あ~! ちょっと待てお前ら。そんなことより大変なことになった。ダンジョンクリエイト室が閉鎖の危機だ」

「は? 嘘? ダンクリ閉鎖になっちゃったらうちらどうなっちゃうの?」

「僕ら路頭に迷うってこと?」

「そうだ、やべーんだ。だがな、俺はだな、現状を打破する素晴らしい妙案を思いついたんだよ」

「え!? なになに? そんな逆転のアイデアがあるの?」

「さっすが僕のムラマサ!」

「離れろ! 飛びついてくんな! まあいいや、お前ら聞きたいか? この俺が思いついた一打逆転の方策を!」

「『うん、聞かせて!』」

「それはなあ――」


 ――魔王と勇者をこの世界に召喚するんだよ!


 決めた、俺は決めたぞ。もうこの手しかない。それ以外考えられない。

 あいつらを呼ぶ。あいつらを呼んでこの世界がどうなってしまうかは分からん。だがダンジョンクリエイト室存亡の危機だ。そんなこと言ってられる状況じゃねえ!

 俺は俺の食い扶持を守る為精一杯足掻いてやる!

 どうなるかはわからんがやらずに後悔するよりやって後悔してやる。


 成功か失敗か、さあ! 俺たちの明日はどっちだ!

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