我らダンジョンクリエイターズ~閉鎖危機のダンジョン課を救う為異世界から女魔王と女勇者を呼び出しました〜
ハルパ
第1話 ダンジョン課のピンチ!
時刻は午後6時、2月とあって、すでに外は真っ暗。その暗闇はまるで今の俺の心境を代弁するかのよう。
俺は自室で項垂れていた。
目の前には双子の子どもが俺のことを心配そうに見つめている。
「ねえムラマサ、大丈夫? 顔色めちゃくちゃ悪いよ?」
「会社でなにかあったの~? よしよししてあげよ~か?」
まるで絵画から出てきたかのような可愛らしいその双子は、普段滅多に見せることのない心配顔で俺の顔を覗き込む。
大変なことになった。正に青天の霹靂。
だが俺には守らなきゃあならんこいつらがいる。俺はすでに心に決めていた。
世界を敵に回してでもこいつらを守る。
その為ならこの世界がどうなろうと知ったこっちゃない。
俺はふたりに告げる。
「いいか、今から言うことをよく聞いとけよ。俺はな――」
――あの世界から……あいつらを……
◇
遡ること数時間前、時刻は午後15時。すでに窓からは西日が差し込んでくる。
俺は経済産業省ダンジョン局ダンジョン2課のとある一室にいた。
突然の上司からの呼び出し。俺は目の前にいる女上司から驚愕の事実を突きつけられた。
それは――
――俺の勤めるダンジョン2課は、ある問題により現在、閉鎖の危機に瀕している。
「何か現状を打破するアイデアありません?」
「え、んなこと言われても俺は只の雇われだし、薄給でこき使われてるだけなんだけど」
「はあ、どうしましょう……」
「いや、どうしましょうって言われても……」
ここは愛知県名古屋市のとあるビルの一室。経産省ダンジョン局の下部組織「ダンジョン2課ダンジョンクリエイト室名古屋支所」だ。
俺村田正雄と俺の直属の上司、
確かにうちの課がかなりヤバい状況にあるっていうのは、このところよく耳にしていた噂だったのだが、まかさそんな崖っぷちに立たされていたとは。
今から約30年前日本各地に突如として出現したダンジョンは、今までこの世界で見ることのなかった有用な鉱石、貴重なアイテムなどが発掘されたことにより、日本国中でダンジョン探索ブームが巻き起こった。
ダンジョン内で発生したモンスターは研究用素材にはもちろん、その毛皮までもが重宝され、なおかつモンスターの中に内蔵されている『魔核』という宝石のような鉱石が、未知のエネルギーを秘めていることが分かると、その無限の可能性に日本中が沸いた。
国はダンジョン探索を免許制にして一般国民をダンジョン探索者として採用する方針をとった。当時不況にあえいでいた日本は、あらたな雇用を生み出す起爆剤としてもダンジョンを利用することにしたのだ。
だがそれも昔の話。日本で現時点で確認されているダンジョンの数は20か所あるのだが、そのほとんどはあらかた踏破され、現状探索が完了していないダンジョンは片手で足りる程度しか残っていない。
貴重な鉱石やアイテムはあらかた取り尽くされ、踏破済みダンジョンから得られるのは、時間経過により自然再生するモンスターからドロップする魔核とモンスターの死体のみ。もちろんそれらは現在でも有用なのだが、当然数に限りがある。
そんな現状に頭を悩ませていたダンジョン局の面々に、今から約2年前、一筋の光が差した。
それがこの俺村田正雄の登場だ。
俺にはある力があった。それは――
――ダンジョンクリエイトの能力
その名のとおりダンジョンを作り出す能力。どこからか俺のことを知ったダンジョン課の連中が、突然俺の家に押しかけてきて、ダンジョン課で働いてくれと宣ってきた。
その頃色々と事情があって止む無くニートをしていた俺は、衣食住の提供と給与の支払い、様々な手厚い福利厚生を約束させ、晴れてダンジョン課で働くこととなったのだ。
俺はダンジョンを生成し、そのダンジョンは当初探索者達で賑わっていた。
このまま全てがうまくいくと思っていた。
だが現実はそう理想通りにはいかなかった。
「とにかくダンジョン生成にお金がかかりすぎるんです。土地の買収から始まって周辺のインフラ整備、周辺企業への売り上げ低下などに対する補填等々、最初はよかったんです。物珍しさから沢山の探索者が訪れてくれました。ですがここ最近のダンジョンの有様見ました?」
そんなこと知ってるよ、そう言おうと思ったが、敢えて口にはしなかった。
澪はさらに言葉を続ける。
「ダンジョンの単純な構造、弱い敵、大した戦利品も得られず、仮に新しいダンジョンを生成したとしても、直ぐにドローンを携えた熟練の探索者が最深層まで到達してしまい、それをネット上へ拡散してしまうので、目新しさも無くなり需要はガタ落ち。余りにもリスクとリターンが見合ってないんです」
「まあ、な。ダンジョン作るにも広大な土地が必要だしな。実際は入り口だけ作ったらダンジョンの中はほぼ異界のようなもんだから、別にそこまで広い土地なんかいらねえんだけどなあ。上の頭の固い連中やらマスコミやらがうるせえからなあ」
「ムラマサさん、なにか起死回生のアイデアはありませんか? 今日は2月2日、年度末の3月31日までに、現状を打破するような打開策が見つけられなければ、私達のダンジョン2課は閉鎖にされちゃうんですよおぉぉぉぉぉ」
「あぁ、分かったから泣くな。つーかさっきまでの凛とした澪はどこ行ったんだよ」
俺の上司三鬼島澪はパっと見クールビューティを装ってはいるが、中身はかなりのポンコツだ。ちょっとなにかあるとすぐに泣く。
「ああ、わかったわかった。ちょっと俺の伝手頼ってみるから。2,3日待ってろ」
「え!? 本当ですか!? はい! 分かりました。待ってます!」
「じゃあ俺もう帰るから。俺のタイムカード押しといてくれよ。残業1時間つけて」
「え、いや、それはダメですよ」
――はあ…… やっぱダメ?
まあ冗談で言ったんですよ、はい冗談です。
しょぼくれながら俺は家路へと向かう。
そこは――
――社宅だ。
◇
そして話は冒頭に戻る。
心配そうに俺のことを見つめる双子へ俺は宣言する――
――魔王と勇者をこの世界に召喚する!
決めた、俺は決めたぞ。もうこの手しかない。てかもうそれ以外に思いつかん!
異世界のあいつらを呼ぶ。あいつらを呼んでこの世界がどうなってしまうかは分からん。だがダンジョンクリエイト室存亡の危機だ。つまり失業の危機! 世界がどうとか、そんなこと言ってられる状況じゃねえ!
俺は俺の食い扶持を守る義務がある!
どうなるかはわからんが、やらずに後悔するよりやって後悔してやる。
このふたりを守る為ならなんだってやってやる!
◇◇◇◇
5月15日大幅に加筆修正いたしました。
※当拙作をご覧いただき誠にありがとうございます。
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