第2話 これは間に合わせるしかないっしょ!
ごぉぉぉぉぉんっっっ!!
耳が痛い。
轟音が響き渡る。
この揺れを経験するのも、これで2回目――いや、違うよね。これで3回目だよ。
1回目は、前世で。
今でも、覚えている。
そして、思い出したくもない。
あの大震災の時だ。
結局、あの時は何人が死んだんだんろう。私は瓦礫に阻まれ、食べ物も水もないまま、衰弱死した。トラックに轢かれて異世界に飛んだワケでも、心優しい女神様にナビゲートしてもらったワケでもない。自我が芽生えた時には、もうすでにこの世界の住人として、生活をしていたから。
2回目は6歳の時。
前回の儀式の時だ。王族の儀式――第2王子の成人の儀で、祖父の案内に付き添った。平坦な道を越え。少しだけ傾斜のきつい坂を越えたら。遺跡はあった。それは神が残したとも、旧文明が残したとも言われているが、詳細は定かではない。ただ天儀の館と言われていて――そこで、6歳の私は前世の記憶が
天儀の館は、オンラインゲーム【天儀の契り】での、周回ダンジョンだ。
ここで素材を集め、
初回、チュートリアルでは、ヒロインが手にする
石碑に飾られた、スマートフォン型の魔法具に、私は何の躊躇いもなく、手をのばし、そして触れた――瞬間だった。
あの時も、腹にまで響く、そんな地鳴りが響いて。
(でも、でも――)
今回は、その比じゃない。
あの時はお爺ちゃんが支えてくれた。
それで、お終い。
手にした魔道具を慌てて、隠す。
平民は、魔術を使えない。魔道具があっても、宝の持ち腐れでしかない。ドクンドクンドクン、心臓が跳ねるのを感じながら。
あの日の私は揺れが収まるのをただ、待って――。
でも、今は揺れが未だ、収まらない。
歯がガチガチ鳴る。
陥没した大地。
倒れた木々。
土砂がまるで、河のように流れて。
「息をしっかり、吸って。それから吐いて」
私はポカンと、その声の方に向けて、視線を向ける。
目をパチクリさせた。
この国が誇る、未来の英雄、三傑。その一人、宮廷魔術師長の養子、ジェイス・ボルノモード、その人だった。
■■■
「え――」
言葉を失い、私は慌てて平伏した。
遠くで見ている分には良い。でも、貴族階級を直視することは、不敬罪だ。と、その動作を止めたのも、ジェイス本人だった。
「レンは咎めるけどさ、僕はもともと平民だからね。むしろ、
「そ、そんなこと言われても……」
「まぁ、だよね? でも、僕と二人でいる時は、普通に接して欲しいかな? お願いね」
ニカッと笑って、そんなことを言う。そうそう、ジェイスはそんなキャラだった。細かいことは囚われない。自由奔放で、貴族社会のなかでも猫のように振る舞う。この時も、魔石の鉱脈調査をしたいと、儀式から離れて――。
(……ということは、コレはジェイス・ルート?)
思考を巡らす。
第3王子、ウィリアムの成人の儀を祝おうという気持ちはあるモノの、窮屈さが際立って、王族の一団から勝手に抜けたジェイス。苛立つ、レン。そして、そんなジェイスに憧れと嫉妬を滲ませる、ウィリアム王子。
もう、この段階で真綿のように、三傑に亀裂が入っていることを知らないのは、新参プレイヤーのみだった。
一人は
一人は犠牲になる――きっと、宮廷騎士団長の息子、レンはココで死ぬ。
今頃彼らは、遺跡の中で……?
(遺跡の中だから、だから何?)
どうも引っかかってしまう。
ゲームでは、ジェイスは、ふて腐れてなかなか動かなかった。
曰く、あいつらは勝手にやれば良いんだ、とか。
僕は調査で忙しいんだ、とか。ようやく、なだめすかして背中を押した時は、もう時はすてに遅く――。
(……遅いって、だから何が?)
前世のゲームの知識と、今の知識を照らし合わせる。
成人の儀に王家の一団が出発した時間を考えたら――まだ、余裕がある。
「ジェイス様」
「な、何だよ?」
ジェイスはきっと、成人の儀をボイコットしたことを咎められていると思っているらしい。私は、小さく笑んだ。
「ジェイス様がお探しのものって、コレですか?」
魔法鞄から、取り出したのは中級魔法石だった。
「それ、どこで?」
ジェイス様は息を呑む。
ジェイスシナリオでは、選択できる質問は二つ。
▷王子様を追いかけましょう!
▷私も魔法石の調査にお供しても良いですか?
前者の質問は、自由人のジェイスの神経を逆撫でするワード。
後者の質問は、ジェイスに添うワードだが、第3王子を救うには至らない。このゲームは、そもそも三傑の二人を弑することが前提のシナリオなのだ。
確かに、過去編の三傑は本当に尊いし、ガチャで手に入る記憶の断片が、魔術を強化する。よくできたシステムだって思うけれど、三傑全員を救えないシナリオが、前世の私には不満だった。
私だったら……。
どう言う?
私なら――。
もう一度、風魔法を
もう、答えなら決まっているから。
■■■
「ジェイス様、遺跡に魔法石の鉱脈があるの、私は知っているんですけれど。興味、ありませんか?」
▶遺跡の魔法鉱脈にジェイスを誘う。
時間は、カツカツ。
でも、きっと間に合う。今なら――。
(見ていなさい、運営っ。前世、コアプレイヤー! 今世、狩人を私を舐めるなしっ。やるしかないっしょ!)
私は満面の笑顔を浮かべ――事前に磨いて置いた魔法石を、ジェイス様にチラつかせたのだった。
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