乙女ゲームのヒロインに転生! これはハーレムめざすしかないっしょ!!

尾岡れき@猫部

第1話 乙女ゲームにログインしたら、とりあえずゲーム始めるしかないっしょっ!



 爽やかな風が吹き込む、

 私は、この時間が好きだ。


 おもいっきり、背伸びをして――深呼吸をする。

 狼の刻。

 旧世界で言えば、日本時間、午前5時。そういえば、この時間に私は予習をしていたっけ。とっとと終わらせて、ゲームを。うん、懐かしい。思わず、前世を振り返ってしまう。


 パンパン、と頬を叩く。どうにもならないことは、振り返っても仕方がない。

 もう一度、深呼吸。

 祖父がくれた、若人の弓に触れる。いわゆる、初心者用の弓だ。


 元弓道部の感覚まで引き継ぐロードできたのが、良かった。でも、この世界の狩人は男性の職業。彼らの弓を引き絞る筋力は、私にはなかった。


(……上手くいかないよね、せっかく転生ログインしたのにさ)


 今でも、信じられない。

 そんな感傷を振り払うように、私は村のなかを駆けた。


 男性達のように、大猪ビッグボア大熊ビッグベアは狩れない。でも、ウサギや野鳥なら別だ。脂ぎっておらず、それでいて良質のたんぱく質が摂れる。村の女性からは重宝されていた。


「サリア、おはよう!」

「おはよう!」


「おはーっ!」


「おはようございます」

「おはよう」


 女性陣の朝は早い。共同井戸から水を汲むのも、大切な仕事の一つだった。本来なら私もそうなのだが、優しいの姉は私の行動を片目をつむってくれている。


 ちなみに3番目に発せられた軽い挨拶。あれがうちの姉さん。多分、日本だったら間違いなく、黒ギャルと言われるような人。ファンションに対する嗅覚がとことん鋭い人けれど、私達は残念ながら平民で田舎育ち。通商キャラバンが、来たときに王都流行のファッションを垣間見るのが、せいぜいだった。


「サリア、また頼むわね?」

「……獲れたらね?」


 私は苦笑しながら言う。いつだって、獲物にありつけるほど、狩は甘くはない。それは男性陣の戦果を見れば、明らかで。


(……まぁ、私のはちょっとズルもあるけれどね)


 皮袋の中にあるスマートフォンを撫でた。


「それはそうと、サリアは三傑を一目見たいと思わないの?」


 私の心臓が、一瞬跳ね上がる。


 第三王子、ウィリアム・アスレイ・ローデンブルク。


 その側近候補、騎士団長の息子であるレン・ラースロット。


 同じく側近候補、ジェイス・ボルノモード。

 貧民街スラムの子だったが、宮廷魔術師長に拾われた養子となる。その潜在魔力は王国史上、随一と言われていた。宮廷魔術師長――宮魔長を凌駕するというのだから、おそろしい。


 思う返すだけで、喉が渇く。唾も上手く飲み込めない。


 まさか、って思った。

 ウスウス感じていたことだ。


 課金もした。

 容赦なくやりこんで、サブシナリオもとことん、踏破しコンプリート率98%。


 乙女系オンラインRPG【天球儀の契り】

 そのメインキャラクター、三人と巡り会った元灰ゲーマー衝撃を5文字で述べよ!



 ――マジで!?




 いや、それってすごくない?

 マジ?


 私が、ヒロイン?

 リアルの話で?

 これって、すごくない?

 そう思ったのも、ほんの数十秒。


(イヤイヤイヤイヤイヤ――)


 あっという間に冷静になる。

 ちょっと、考えれば、よく分かることだ。


 メインキャラクター3人に対して、どれだけの乙女達がプレイしたことか。でも、この現実世界リアルで、選ばれるヒロインは1人だけなのだ。

 辺境と言われた、はじまりの村で――。


 優しい姉の顔を見る。彼女なら、メインヒロインに相応しい。

 私なんか、どう考えてもヒロインになれない。

 だから、いつも通り笑って見せた。


「三傑様に、なんて……恐れ多いよ」

 

 そう、自虐気味に笑んで。

 踵を返す。


 誰がヒロインなんだろう。

 誰が、主人公でも。


 Ture Endトゥルー エンドは1人だけ。


 1人は、犠牲になり。

 1人は、悪魔となって墜ちる。

 このシナリオは、絶対に覆せない。




 風を切るように走る。

 スマートフォーンに触れる。


 装備枠スロットに入れていた風の初級魔術を発動。俊敏性が3%向上。さらに、早く。もっと早く。ヒロインとの最初のイベントなんか見たくない。




 ――三傑になんか興味はない。


 そう、村を飛び出したヒロインは、ぶつかってしまうのだ。その前の主人公に割り振ったパラメーターや、質問への回答が、これからのシナリオに直結する。


 そう思考を目くぐらしていると、ぐらんと足下が揺れた。


(え――?)


 五臓六腑にまで響く、地鳴り。

 私は、これを知っている。

 縦に大地が揺れて。

 つい、体が竦む。


 地震だ。

 誰かが、遺跡の封印を解いたのだ。

 今回、三傑が始まりの村を訪問したのは、王家の慣習。成年の儀を執り行うため。王族は、この儀式を経て、王立魔術学園に入学する――。


 これは、序章チュートリアルが強制開始になった合図といえる。


 ぱふっ。

 私は何かにぶつかって、よろめいた。


(へ――?)


 私が倒れるより早く。

 抱きしめられ、て。

 これって――?

 え?






▶天球儀の契り 

▶序章「運命の出会い」が開始されました。

▶ユーザーデータをダウンロード中。

▶過去のセーブデーターをロード中。

▶認証されました。

▶課金アイテムは、学園寮図書館に保管されました。

▶メインヒロインのデータをシステムに報告。

▶認証されました。

▶全てのヒロイン候補データを削除します。

▶認証されました。

▶サリア(16)女性 職業、狩人をメインヒロインと認証。

▶ユーザーレベル、387。フレンド数、4枠を確保。

▶それでは引き続き【天球儀の契り】をお楽しみください。





 私の視界の片隅で、山の木が抉れて。

 轟音が鳴り響く。

 そして――土砂が河のように、流れていく様を、私はただ呆然と見やるしかなかった。

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