第84話 嫁の秘密

 マスターから指示を受けたあっしは、愛しい妻たち。ファラとセラに挨拶した後、ルディアを出立。リーゼどのたちを追いかけることとなった。


「しっかし、お頭。俺っちたちをこれだけ出すなんて大旦那も豪気だねぇ」


 どこかからかうように、またはあきれたように呟くのはマクス。まぁ、こいつの場合、奥さんと仲睦まじく乳繰りあってるときに呼び出されましたから、その不満もあるんでしょうねぇ。

 それに、今回。マスターの決断にあっしも思うことがあるのは事実。なにせ、現状総軍の三割を援軍へ割こうってんです。いくらなんでも博打に過ぎる。

 ですが、あっしが総大将に抜擢されている以上、そんな不満を漏らすわけにもいきません。思うところがあろうと、部下は宥めておかないと……。


「これ、マクス。あんまり不満ばっかり言ってんじゃありませんよ。奥さんが恋しいのはわかりますがね。あっしだって、本来だったら今頃セラあたりと致してた筈ですしねぇ」


 冗談めかして告げると、どっと場が笑いに包まれました。あっしとマクス、どっちも嫁バカで有名ですからねぇ。マクスなんて、必死にこくこく頷いてますし……。少しくらい、世間体というかなんというか、考えてもらえるとありがたいんですが。

 そんな話をしていると前方に集団の姿が見えてきました。どうやら追い付いたようですねぇ。


「やれやれ、無事に合流できると良いんですけど……」


 一応、マスター越しに話は通ってる筈ですが、ちゃんと合流できるか一抹の不安を抱きながら、あっし自身が先触れとして先行することにいたしやした。








「意外と早かったのね、ルード」


 どうやらあっしの不安は杞憂だったようで、問題なく帝国軍に合流。部隊に組み込まれることとなり、あっしとマクス、指揮官組はリーゼロッテの姐さんたちと面通りすることになりやした。


「えぇ、どうしても皆さん重武装ですからね。軽装のあっしらの方が足は早くなりやすやね」

「ま、そうだろうな」


 あっしの軽口に水色の髪の女騎士、アリアの姐さんが同意します。まぁ、肝心の姐さんは比較的軽装なんですがね。

 と、言うかリーゼロッテの姐さんもそうですし、アレク皇女さま? に至っては鎧すらまとってない始末。ちょっと不用心すぎませんかね?

 そんなあっしの考えが読まれたのかもしれません。アレク皇女さまがえへへ、と笑いながら口を開きました。


「ボクが鎧を着たところで動きが遅くなるだけで意味ないからね。もしもの時、すぐ逃げられるように身軽じゃないと」

「……はぁ、そういうもん、なんですかね?」

「うん、そういうもん、そういうもん。ボクの役目はあくまで軍の動きを考えることで、リズ姉たちみたく前線での切った張ったじゃないから。適材適所、だよ」

「……なるほど」


 軍師、というやつでしょうか。立ち位置的に戦いの時のマスターと同じ、ということでしょう。どうやら、少ない時間の会談でしたが、話したマスターが一目置いていたようなので、きっと優秀なんでしょうねぇ。まぁ、基本バカなあっしでは推し量れないなにか、があるかもしれやせんし、そこらあたりはお任せするとしやしょう。


「ともかく、あっしらはマスターからそちらの指示に従うよう言われてきやした。と、言っても正面戦力としては不足なので、あくまで補助しかできやせんが……」


 実際、帝国軍の正面戦力が二千あるのに、こちらの九十が加わったところで誤差の範囲ですからねぇ。あくまで斥候や牽制が関の山でしょうよ。


「うん、そこらあたりはヒデヨシくんからも聞いてるよ」

「そうですか、そりゃ良かった。あっしとしても、あんまり嫁さんに心配かけられませんし――」

「ちょっと待って?」


 どうしたんでしょう? リーゼロッテとアリアの姐さんが目を白黒させてますが。なにかおかしなこと、言いましたかね?


「……その、ルード? あなた、結婚してたの?」


 ……あぁ、そういう。そう言えば、お二人はあっしが所帯を持ってること、知りませんでしたねぇ。紹介したこともなかったですし。


「えぇ、そういや言ってませんでしたねぇ。これでも奥さんとは仲良くやらせてもらってますよ」

「そ、そう……。んっ? たち――??」


 あっ、そっちもですか。


「えぇ、たちですよ。なんでか知らねぇが、こんなあっしを好いてくれてる女性が多くいましてね。男冥利に尽きますが、それでもあっしからすれば2人でも多いくらいでさぁ」

「そ、そうなのね……。まぁ、ルードはルディアの英雄なのだし、おかしい話じゃない、のかしら?」


 どうにもリーゼロッテの姐さんが挙動不審になってますね。それくらい驚かれてる、という話でもありますが。


「本当、あっしには勿体ないくらい良い女たちですよ。ファラもセラも――」

「――待ちなさい」


 先ほどまでとは違うリーゼロッテの姐さんの様子。なにか問題でもありましたかね?


「今、セラと言った? そのセラ、紫色の髪の僧侶の?」

「……? えぇ、そのセラであってますが」


 そう言えば、帝国軍を案内する時、使者として赴いたのがセラでしたか。それで、ですかね?

 あっしが肯定すると、姐さんだけじゃなく、他の2人も吃驚してやした。セラになにかあるんです?


「ちなみに、なんだけど……。交際は、どちらから?」

「どちらから、何て言われても……。セラは押し掛け女房ですかね? 最初は驚きやしたよ、あっしにはファラがいるって言ってるのに引き下がってくれねぇんですから」

「ちょ、ちょっと待って。もしかして、彼女。二号さん扱いなの?」

「え? えぇ、一応、うちでは第二夫人扱いですが、なにか?」


 あっしの言葉を聞いて、皆さん口をあんぐりと開いてます。何をそこまで驚いてるんで? でも、なにやら嫌な予感がしてきました。そして、どうやらそれはあってたようで――。


「なにか、じゃなくて――。もしかして、彼女名乗ってないの? あの娘の本名はセラ・セント・クレア。今は没落しているとは言え、元王国の貴族で、アルデン公国にも多少、縁のある娘なのだけど……」


 ……いや、なんも聞いてない。セラがそんな大物なんて聞いた覚えないんですけど?! ついでに息子も既に産まれちまってますよ?! この場合、どうなるんでしょう……。

 最悪、マスターに丸投げしちまいましょうか。

 あっしは現実逃避ぎみに、そう考えてしまうのでした。

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