第80話 常識とは大人になるまでに集めた偏見のコレクションである
……二人の不仲はひとまず棚上げするとして、こちらからの援護要員をどうするか。
正直、手伝い戦で戦力を消耗したくないのと、レクス・ランドティア。奇襲軍司令官の行動を読めないから、あまり戦力を送りたくないのが本音だ。
だが、本当にそれをしちまうと公国首都を解放できたとして、こちらの発言力が失われる。そうなると、最悪こちらが切り捨てられる可能性すらある。それだけは避けなければいけない。それに……。
「確か、以前確認したダンペディアではリーゼロッテ以外の公族は排除されている。という情報が記載されていた筈だが……。この情報、本当に信じて良いのか?」
以前の仮説を採用するとして、そうなるとランドティア王国は軽率な行動をとった、ということになる。それとも遠戚とはいえ、血を継いでいるランドティア王家がいるから問題ない。それこそ、以前考えた可能性の1つ。ランドティア=アルデン連合王国を作るつもりか?
いまいち分からんな。さて、
とりあえず、リーゼロッテやアレク皇女を裏切るのは下策中の下策。裏切ったところで旨味はないし、それこそ二大国を同時に敵に回すだけで意味がない。
今帝国と王国を敵に回したところで物量差で磨り潰されるのがオチだ。
「あら、主さま。なに見てるの?」
そう言ってジャネットが後ろから覆い被さってくる。……さいわい椅子に背もたれがあったから、彼女の柔らかそうな胸が直接当たることはなかった、けど――。
「……すまんが、ジャネット。離れてくれると、その。助かるのだが……」
「ふふっ、主さま。もしかして、照れてる?」
女性特有の良い香りが俺の減退した性的欲求を刺激する。
そのことも完全に分かって言ってるだろうに。声だって笑いを含んでたし。きっと振り返ると、にやにや、と笑っている顔がある筈だ。
だが、すぐに後ろの雰囲気が変化する。ジャネットがダンペディアの画面をじぃ、と真剣に見つめているだろうことが、なんとなく分かった。
「それ、もしかしてダンペディア?」
「……知ってるのか?」
驚いた、まさかジャネットが知ってるとは……。どこで知ったのだろうか?
そんな俺の疑問をよそに、ジャネットはおそらくアドバイスであろう言葉をくれる。
「あんまり、それ。信用しない方が良いわよ」
「そうなのか……?」
「ええ。それ、ダンジョン内部の情報なら信用できるけど、一歩でも外に出たら確度がぐん、と下がるから」
「ふむ……」
少なくとも、真剣な様子からすればこちらを騙したり、からかう意図はなさそうだ。
……確かに、向こう。かつての世界でもこれ系統。情報の信憑性が疑わしい、と言われてたからなぁ。そんなところまで真似しなくて良いのに……。
「というか、ナオから説明なかったわけ?」
「いや、あいつからは使いこなせば有用な情報源になる、とだけ――」
俺の台詞に被せるよう、はぁぁっ。と深いため息をはいたジャネット。そして、そのままナオへ詰め寄っていく。
「ちょっと、ナオ! あなた、ダンジョンコアならちゃんと説明しないとダメじゃない!」
「あっ、は、はい……?」
ジャネットの剣幕に、ナオは目を白黒させている。まさかサボり魔かつ、喧嘩していた相手に真っ当な注意されるなんて思ってもみなかったんだろうなぁ……。
まったく、もう。と不機嫌な様子でがしがし頭を掻きながら戻ってきたジャネット。そして今度は俺へ話しかけてきた。
「もう、主さまも主さまよ。ナオの
「いや、まだ半年も経ってないんだが……」
「…………はい?」
先ほどまでの剣幕はどこに行ったのやら、ポカン、とした顔で呆然としている。あ、以外とこいつ。顔立ちはかわいい系なんだな。普段はキリリ、としているというか妖艶な感じなんだが。
「うっそでしょ! まだそれだけしか経ってないの?!」
机をバンッ、と叩いて捲し立ててくる。どうやら信じられないらしい。確かに、ナオも俺のことを異例だと言っていたしな。さもありなん、と言ったところか。
「えぇ、それで間違いありません。マスターは異例の早さでチュートリアルをパスされました」
「そっかぁ……。なんかごめんね、ナオ」
「いえ、理解していただけたのなら……」
なんか、この二人。急に仲良くなったな。というより、人を非常識の塊みたいに言わないでほしい。二人して黄昏てるし……。
「そ、それなら色々知らないのも無理ないわね! ナオは当然として、あたくしも教えるから、色々覚えましょうか!」
……気遣いは嬉しいのだが、その、微妙に引きつった表情はなんなんだろうか。いや、嬉しいのは本当なのだが……。
なんとも部屋の中に微妙な空気が流れている。まぁ、何はともあれ。今はルード辺りに指示を出すのが先だろう。
俺は、あえて部屋の空気を無視し、ルードにどれだけの兵力を率いらせるか、思案に暮れるのだった。
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